少し前まで、小泉進次郎さんが「農協改革」という言葉をよく発していました。お父さんの小泉純一郎さんが「郵政改革」と言い続けて郵政民営化を実現したのを思い出します。しかし、郵便局の一般的なイメージは「郵便屋さん」ですが、農協も「農業の何か」となってしまうのではないでしょうか。都会に住んでいると、農協と言われてもピンと来ないかもしれません。

ところが、かつての郵便局に改革が必要だったように、農協もまた改革を迫られる理由があるのです。というわけでここでは、農協改革の背景を知るために、よく分からない農協の実態、問題点の概要をなるべくわかりやすくまとめてみました。

 

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そもそも農協とは何か

農協とは、「農業協同組合」のことで、一般的には、各地域ごとに作られる「単位農協」のことを示します(最近はJA(Japan Agricultural cooperatives)を使うことが多くなっています)。

全国に約700のJAがあり、このJAを都道府県単位で取りまとめ、監査・指導を行うのが「都道府県農業協同組合中央会 (JA中央会)」で、JA中央会を取りまとめて監査・指導する全国組織が「全国農業協同組合中央会(JA全中)」です。たまにJA全農(全国農業協同組合連合会)のことをJA全中と間違えている記事を見かけますが、JA全農は販売事業の全国組織です。

組織形態は協同組合なので、農家さんたちのための「生協」のようなものと考えると分かりやすいかもしれません。実際、JAの支店に行くと、農家さんのための生活用品も売られています。

ただし、農家さんにとって、JAの生活用品の販売はほんの一部です。大きな機能としては

「農作物を集荷して、市場に出荷する」

「農機具(軍手、長靴から車やトラクターまで)、農業用資材(種、土、農薬からビニールハウスまで)、燃料(ガソリン、灯油、ガス)などの販売事業」

「金融事業(貯金、貸付)と共済(生保、損保)」

 

の3つに分けられます。

この金融事業を全国でとりまとめて運用しているのが農林中央金庫 (農林中金)全国共済農業協同組合連合会(JA共済連)です。他にも、新聞を発行したり本を出版したり旅行代理店を経営したり、様々な関連企業があるのですが、とりあえず「JA全中-JA中央連-地域農協」の上意下達ラインと、「農林中金」「JA共済連」が農協改革のキモですから、しっかり覚えておきましょう。

 

農協の特殊性

では、なぜ農協改革が必要とされているのでしょうか。JAならではの特殊性がありますので、いくつかのポイントに分けて考えてみましょう。

 

上意下達のライン*

※上意下達のラインとは、上位からの命令等を下位に伝える情報伝達網のことです。

本来、JAの目的は農業生産力の増強とか、農家の経済力や社会的地位の向上といったものが挙げられます。つまり、「農家」がいるからJAが必要になり、JAを取りまとめるためにJA中央連やJA全中が存在するという、ボトムアップの組織となるはずですが、現実の力関係は正反対です。JA全中がJAの監査をして、指導権も持っていますから、個々の単位農協よりも、全国組織の方が力が強くなってしまったのです。

これは、JAの前身が、戦時統制組織(戦時中に国民を統制するための組織)として誕生した「農業会」だったためです。戦時中のコメ不足に対応するため食糧管理法が制定され、米の流通は全て政府が統制することになり、農業会はその管理組織として機能しました。戦争が終わり、農業会は解体されましたが、食糧難は続いていましたので、事実上の後継組織としてJAが誕生したのです。

さらに戦前まで遡ると、旧農林省の政策を地方まで行きわたらせるために全市町村に設置された「農会」という組織と、組合員のために肥料などを購入し、作物を出荷し、融資する「産業組合」という組織がありました。戦時中に、この二つの組織を統合させて誕生したのが「農業会」です。農会は全ての自作農、小作農の加入が義務付けられ、地主も加入していました。

このように、JAが誕生するまでの経緯を見れば分かるとおり、そもそもJAのDNAには、「国の政策を行きわたらせること」という使命が織り込まれているのです。もちろん、政策が一方的に降りてくるだけではなく、数の力で農村の要望を届けるためのルートとしても機能しています。

 

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組合と組合員の関係が逆転

一方で、JAと農家の関係も逆転しています。農家が作物を作り、それをJAが集荷して市場に送る。その際に手数料を徴収することでJAは成り立っているのですから、本来は農家の方がJAを使う立場なのです。

ところが、今や農家はJAが無ければ作物を出荷できませんし、JAの奨励作物の方が手取りが多くなるので、JAの指導する作物を作っています。また、高価な農機具を買う際にも、JAで買えばローンが組めますし、返済は作物の収穫期まで待ってもらえます。

また、農業を守るために、様々な補助金が用意されていますが、この申請手続きや受給の条件として、JAが関与しなければならないものが多いのです。JAに加入せず、新しい農業をやりたいと思って農業に参入しようとする人も多いのですが、補助金を受ければ楽に就農できますので、やはりJAの一員となることが多いのです。

こうして、農家はJAの言いなりになり、JAはJA全中の言いなりになるという構造になっているのです。

 

金融事業を営んでいる理由

JAでは、販売事業も金融事業もやっていることを紹介しましたが、不思議だと思いませんでしたか?

例えば、銀行では、絶対にモノを売っていませんし、モノを売っているお店ではお金を貸してくれません。たしかに、お店でモノを買うときツケで売ってくれるお店もありますが、基本的には月締めで請求が来て、金利を取られる訳ではありません。クレジットカードで買えるお店は多いですし、お店と提携しているカードもありますが、あくまで信販会社が支払いを立て替えてくれているのであって、お店が貸してくれる訳ではないのです。

これは何故かというと、金融事業(お金を貸して金利を取る商売)を行うことができる銀行や信販会社は、他の事業との兼業が禁止されているからなのです。禁止する理由は、お金を貸すという強い立場を利用して、モノやサービスを押し付ける恐れがあるからです。お金に困って銀行に借りに行ったとき「貸してもいいけど、代わりにこれを買いなさい」と言われたら断れないですよね。

ところがJAの場合は、戦前の産業組合の頃から兼業が認められています。それは、かつての農家は銀行からお金を借りるだけの信用力が無かったことや、そもそも銀行が農業に無関心で資金を融資する気が無かったという事情があります。農村の物流機能の弱さも含め、そのような状態を克服するために産業組合が組織されたので、金融機能とその他の事業が兼業となっていたのは、当然と言えば当然のことだったのです。

銀行にとって、農業という営みや農家の事情は完全なブラックボックスなので、いくらまでなら貸付が可能か、どれくらいの廃業リスクがあって、金利をどれくらいにするべきなのかがが分かりません。一方、JAは農家の跡を継げなかった次男坊が就職することが多く、農業のことや、地域の農家の事情に通じています。貸し付ける際に必要な情報を把握していますので、適切な融資が可能なのです。

 

まとめ

当初は、貧しい農民や農村のために結成されたはずの団体が、社会の変容に伴って異形の組織となってしまったことが、お分かりいただけたでしょうか。

こういった問題点を改善することが、農協改革の目的なのです。

しかし、まだここで書き切れていない農協の問題点もあります。

農協は、今や資金力で比較すればメガバンクの第二位に相当し、保険会社と比較しても第二位の規模があります。このような資金力を背景として、政治力を発揮しているのが、現在の農協(JA)の姿なのですが、その内容は別の記事でまとめています。

農協の問題点:資金力と政治や選挙との関係、米価格が下がらない理由