将棋と言えば、この一年くらいは藤井総太四段がプロデビューからの連勝記録を更新し続けて大きな話題となりました。

また、プロデビューの際に対戦した加藤一二三九段の愛称「ひふみん」が流行語大賞にノミネートされるなど、将棋界全体の注目度が上がっています。

そして先日、羽生善治棋聖が竜王のタイトルを獲得し、「永世七冠」の称号を得たことが大きく注目されています。これまでにも将棋界の記録を次々に塗り替えてきた羽生さんですが、今回の「永世七冠」は、前人未到の大記録と言われていますね。

それでは、この永世七冠とは何でしょうか。

ここでは将棋について詳しくない方に向けて、将棋のタイトルの種類や永世七冠の達成条件と、称号の難易度を紹介していきます。

 

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タイトルの種類と永世七冠の条件とは

将棋には、竜王戦・名人戦・叡王戦・王位戦・王座戦・棋王戦・王将戦・棋聖戦という8つの大きなタイトル戦があります。

毎年開催されるこれらのタイトル戦で優勝した人が、「竜王」や「名人」といった称号を獲得するのです。

これらのタイトルは一度獲得するだけでも相当困難なものなのに、何度も獲得する人がいます。このような場合に「永世称号」が与えられるのです。永世称号の獲得条件はタイトル毎に以下のような規定があります。

  • 永世竜王:通算7期か連続5期
  • 永世名人(呼称は第〇世名人):通算5期
  • 永世叡王:規定なし(2017年からタイトル戦になったばかりのため)
  • 永世王位:通算10期か連続5期
  • 名誉王座:通算10期か連続5期
  • 永世棋王:連続5期
  • 永世王将:通算10期
  • 永世棋聖:通算5期

 

つまり、永世七冠を達成するには、叡王戦を除くこれら永世称号の規定がある7つのタイトル全てでたくさん、または連続で勝つ必要があるのです。

なお、永世称号は原則として棋士を引退した後で贈られる(名誉王座のみ満60歳から名乗ることができる)もので、現役棋士の呼称として使われることはありません。

ただし、大山康晴十五世名人中原誠十六世名人はあまりに偉大な記録であったために、現役で永世称号を名乗ることが許されていました。

羽生さんも前人未到の大記録を打ち立てましたから、現役での呼称が許されることになるかもしれませんね。

 

タイトル獲得はどれくらい難しいものなのか

なんとなく、永世称号が凄いことなのは分かりますが、そもそも「タイトルの獲得」はどれくら難しいものなのでしょうか。

現役の棋士は162人しかいませんし、8大タイトルを均等に分け合うとしたら「20人に1つのタイトルがある」という考え方もできますから、それほど難しくないような気がしても仕方ありません。

ところが、実際にこれまでに行われたタイトル戦の記録を見ると、いかに難しいことなのかよく分かります。

まず、これまでに1つでもタイトルを獲得したことがある棋士は、引退した棋士を含めても40人しかいません。

この他に、タイトル戦の決勝まで進んだことがあるけれども勝てなかった棋士でさえ31人しかいませんから、そもそもタイトル戦の決勝に登場したことがある棋士は、引退した棋士を含めてもたった71人しかいないのです。

ちなみに、タイトルを2回以上獲得したことがある棋士は史上24人しかいませんが、羽生さんは先日獲得した竜王のタイトルが通算で99回目のタイトルでした。

相撲界で言うところの白鵬のような圧倒的な強さです。

現役の棋士でこの次に多くタイトルを獲得しているのは谷川浩二九段ですが、その記録は通算27期です。

この記録も歴代4位の堂々たる記録ですが、羽生さんの記録が偉大過ぎてかすんで見えてしまうから不思議ですね。

なお、同時に複数のタイトルを保持したことがある棋士は史上13人しかいませんが、羽生さんは当時の7大タイトルを一人で独占したことがあり、この時も大きな話題になりました。

つまり、将棋のタイトルを獲得するのは想像を絶する大変なものなのに、羽生さんや谷川さんのような超天才棋士が現れてはタイトルを獲得してしまう、というのが将棋界の力関係になっています。

 

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竜王と名人はどっちの称号がすごい?

実はタイトルはその称号によって重さが違っています。

「〇〇名人」という称号は、将棋以外の世間一般でも使われていて、その世界の第一人者のことを指すのが普通です。

ところが、将棋の世界では名人と並んで「竜王」というタイトルも君臨していて、この2つはその他のタイトルとは別格とされています。

今回、羽生さんが竜王戦で勝利した相手は渡辺明棋王で、この人は既に永世竜王の資格を獲得しています。

なんと、永世七冠を達成した羽生さんでさえようやく通算7期目となった竜王のタイトルを、通算11期・連続9期も獲得している現役最強の竜王ホルダーなのですが、なぜか名人戦では挑戦者にすらなったことがありません。

なぜ竜王を11期も保持したことのある棋士が、名人戦ではまったく活躍できないのでしょうか。

 

竜王戦と名人戦のルールの違い

渡辺さんの場合は極端なケースですが、タイトル戦毎にルールが異なるため、タイトルごとに得意・不得意が生じているようです。

例えば、竜王戦は持ち時間が8時間(挑戦者決定トーナメントで5時間)、名人戦は9時間(挑戦者が決まる順位戦で6時間)となっているため、名人戦では勝負所での長考が可能となっていて、そこで差が付いているようです。

逆に考えれば、竜王戦の終盤は短時間で指すことになりやすいのですが、このパターンになると有利になる棋士もいる、ということなのでしょう。

その点で考えると、永世七冠というのは中に苦手なルールがあっては達成できませんから、羽生善治棋聖の凄さがより際立ちますよね。

野球で言うところの打ってよし・守ってよし・走ってよしという選手でないと不可能ということです。

 

その他の違い

また、竜王戦は全ての棋士が参加できるため、その年にプロになったばかりの新人がタイトルを獲得する可能性があります。

実際、藤井聡太四段は史上最年少で今年の竜王戦の決勝トーナメントに進出したので、そのまま勝ち進めば竜王のタイトルを獲得できたのです。

一方、名人戦の予選リーグ(順位戦)は棋士の強さによって5つのクラスに分かれていて、最も上のAクラスに格付けされていなければその年の名人戦の挑戦者になることはできません。

このため、デビューから名人タイトル獲得までは、最短でも5年かかるのです。

そう考えると、称号の難易度的には竜王戦よりも名人戦の方が高いと言えるでしょう。

 

一方で賞金で比べると、竜王戦の優勝賞金が4,320万円で、名人戦の優勝賞金はその半額程度(非公表)ですが、名人になると毎月の名人手当が支給されるなど、諸々の全てを合計すると3,000万円台の後半に届くと言われています。

ですから、賞金額で上回る竜王戦の方がタイトルとしての格付けは若干上とされていますが、名人戦は江戸時代から使われていた「名人」の称号を引き継いでいることや、一番最初に発足したタイトル戦であること等から、竜王戦との賞金の差が十分に埋まる格式があると考えられています。

 

また、このように竜王と名人は他のタイトルとは重みが違うので、他の6つのタイトルと竜王や名人のタイトルを同時に保持した場合でも、「〇〇竜王」や「〇〇名人」と、その他のタイトルは省略して呼ばれています。

ただし竜王と名人を同時に保持した場合には「〇〇竜王・名人」と省略せずに呼ばれるのが習わしとなっています。