最近、大手スーパーの鮮魚コーナーに行くと「海のエコラベル」が貼られた商品が並んでいます。環境に良い海産物だけに、この「MSCマーク」を貼ることができるのですが、よく見ると国内で獲られた海産物はほとんど置いていません。

なぜこのような状態になっているのか。それには日本の漁業の在り方と大きな関係があるのです。

というわけで、ここでは日本の漁業特徴と現状、問題点を海外での漁業規制と比較しながら、わかりやすく取り上げていきます。

 

MSCマークとは何か

MSC(Marine Stewardship Council、海洋管理協議会)マークとは、「海のエコラベル」と呼ばれる認証エコラベルです。

海の自然環境や水産資源を守るためのルールに基づいて漁獲された水産物に貼ることができるのですが、残念ながら日本の水産物はほとんど認証されていないのが現状です。

これに対して、欧米の漁業先進国では、適切な漁獲規制ルールを厳格に運用していて、MSC認証を受けているようです。

このため、日本の店頭に並んでいるのも、ほとんどがノルウェーなどの漁業先進国の漁獲物になっているのです。

 

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欧米では個別漁獲枠制度

現状、日本ではあまり有効な漁業規制が敷かれていません。個人ではなく地域ごとで漁獲枠が定められており、その枠内で個人の奪い合いになるため、ヨーイドンで一斉に漁の競争が始まるいわゆる「オリンピック方式」となっています。大きい魚も小さい魚も一緒くたに、他人より先にどんどん獲る必要があるため、漁師さんの稼ぎも良くなく、漁業全体の効率の悪さの根本的な原因となっています。

一方、ノルウェーをはじめとした漁業先進国では「個別漁獲枠制度」が運用されています。この制度では、個々の漁船(漁師さん)に対して1年間の漁獲枠を付与しますので、漁師さんは急いで漁をする必要はなく、1年かけてゆっくり漁獲することができるのです。魚市場の状況を見ながら、高く売れる時期に獲るように動けますし、小さい魚は高く売れないので獲りません。単価の高い時期に合わせて、単価の高い魚を獲りますから、漁師さんの収入が良いのです。

 

また、オリンピック方式の場合、毎日漁場に向かって全速で漁船を走らせますので、燃費が悪いことも指摘されていますが、個別漁獲枠制度ならば自分のペースで漁ができますので、コストが押さえられることも知られています。

コストが大きく差を付ける漁業としては、イカ釣り漁船が典型的です。

イカ釣りでは、強力な照明を点けてイカを集めるのですが、オリンピック方式だと他の漁船よりも強い照明を点ければ他の漁船よりもイカを集められるため、どんどん明るくする競争が行われて(日本の漁火が人工衛星でも撮影できることが話題になりますね)います。

一方、個別漁獲枠が割り当てられていれば、他の船よりイカを集めても意味がありません。むしろ、照明を点けるコストを減らすために、みんなで光量を一定に保つようになったり、他の漁船が出ている日は漁を休んだりしているようです。

 

巻き網漁船と水産庁の関係

こうやって比べてみると、「日本でも個別漁獲枠制度を導入すればいいのに」ということを誰でも思うでしょう。実際、水産庁でも、このような海外の成功事例は把握しているのですから。では、なぜ取り入れないのでしょうか。

一つの大きな理由として挙げられるのは、日本では水産加工会社の力が大きい、ということです。

 

旋網漁船団とは何か

大手の水産加工会社は、自前の旋網漁船団を持っています。旋網(まきあみ)とは、長さが1km~2kmもある大きな網で魚の群れを囲い込んで、まさに「一網打尽」で獲り尽す漁法のことです。群れになって泳ぐ魚を効率的に獲ることができますので、マイワシ、サンマ、アジ、サバ等を狙います。

旋網は一度に大量の魚を獲りますので、市場が荒れます。供給が一気に増えますので、あっという間に魚価が下がるのです。ところが、旋網漁船団は地域の漁協に所属していないので、一般の漁師さんには旋網漁船団の動きは連絡されません。ある日突然、市場価格が下がってから分かるのです。

このような状態ですから、欧米のように個別漁獲枠制度を導入しようと考えても、水産加工会社は反対します。ヨーイドンで先に獲った者勝ちのルールの方が、一度にたくさんの魚を獲って、割安に加工することができるからです。

そして漁業のルールを決めるのは水産庁ですから、水産加工会社は天下りを引き受けて、水産庁の政策が自分たちにとって有利になるように働き掛けることで現状を維持しているのです。

もちろん、水産加工会社ばかりが有利になると、さすがに漁師さんたちの反発がどんどん強くなってきますので、小規模な漁師さんたち向けの補助金もたくさん用意されています。

一例を挙げれば、新しく漁船を買うときはその半額が補助されますし、漁船保険の保険料も4分の3が補助されます。漁船で使う重油やガソリンだけではなく、軽油も灯油も半額が補助されます。この燃油に対する補助があるため、小規模な漁協や漁師さんもとりあえず納得し、ヨーイドンの効率の悪い漁業が見直されないという悪循環になっているのです。

 

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養殖が環境悪化を招く

また、環境に与える悪影響も問題視されています。

数年前からマグロの完全養殖が確立したということで、養殖マグロがブランド化されたりしています。天然のマグロの個体数が減っているので、完全養殖が可能になれば環境改善に向かうのでしょうか。

残念ながら、そうはうまく行かないのです。

養殖のマグロも、餌を食べないと生きていけません。天然のマグロなら、自分で勝手に餌となる魚を食べて成長しますが、養殖の場合、餌となる魚を人間が獲ってきて、それを食べさせなければいけないのですが、この時点で「餌となる魚を獲るためのコスト(燃料消費)」が必要になります。

しかも、天然のマグロなら、生きている魚を追いかけて、自分が食べる分だけを食べ、それ以外の魚は逃げていきますが、養殖用の餌の場合、死んだ魚を「生け簀」にばら撒くため、食べきれなかった餌は海底に沈んで(又は流されて)いきます。これらの無駄になった餌が海中でプランクトンの餌となり、大量に発生したプランクトンが赤潮として観測されるのです。かつては赤潮と言えば、工場や家庭からの排水が主な原因でしたが、今は養殖による影響も無視できない状況になっています。

この養殖場で使われている餌が、巻網で獲られた未成魚(小魚)なのです。市場に出しても売れないような小魚だから獲らなければ良いはずなのに、養殖場で使うことができるので獲っている状況なのです。

こうして、ただでさえ資源が減って困っているのに、まったく規制が働かない状況になっているのです。

 

まとめ

このように、日本の漁業は意外と大きな問題を抱えています。

水産庁と大手水産加工会社がガッチリと手を結び、小規模な漁協や漁師さんも、国からの補助金やその他の待遇にそれなりに満足してしまっているのが日本の漁業の現状なのです。

何とか、このような状況が打開され、日本の豊かな海の復活と日本漁業の発展のために、適切な漁獲ルールを導入するように政府が動いてくれることに期待したいですね。