平成25年4月の第1回目の交渉から、約4年半の歳月を経てようやく日EU・EPAが大枠合意に至りました。

本来は平成28年に合意を目指して交渉が行われていたものが見送られ、今年も見送りになるか、と思われたところで決着が付いたという形になります。

それでは、この日EU・EPAが実現されることで私たちの生活にどのような影響があるのでしょうか?

今回は日EU・EPAとは何か、そしてその交渉が日本に与える影響についてわかり易く説明していきたいと思います。

 

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日EU・EPAとは

日EU・EPAとは、日本とEU間(日EU)の経済連携協定(Economic Partnership Agreementの略)のことです。

経済連携協定とは、国と国の間の関税撤廃・経済取引の円滑化・制度の緩和等で貿易や投資を自由化し、お互いが協力し合って経済の活性化を図ろうという試みになります。

 

日EU・EPAの重要性

EUは一つの共同体として見た時、世界第2位のGDPを誇っています。英国が抜けることで順位が下がるものの、大規模な経済地域であることは間違いありません。また、日本は英国とも2国間交渉を続けているため、それが実現すれば世界最大規模の自由経済地域が誕生することになります。

WTO(世界貿易機関)が行き詰っている今、2国間や地域間の枠組みを設ける動きが活発になっています。米国がNAFTA(北米自由貿易協定)の見直しを要求する動きを見せる中で、日EUの交渉が最終合意に向けて大きく進展したことは、実に大きな出来事といえるでしょう。

また、日EU間ではEPAの他に戦略的パートナーシップ協定(SPA)の交渉も同時に行われています。英国のEUからの離脱や米国のトランプ政権の誕生といった、かつての覇権国家の不安定さによって世界経済が不安定になる中、世界の経済を引っ張っていく役割を担うという思惑も感じ取れます。世界全体が不安定になる中で、日EUが協力的なパートナーとなることで世界経済をけん引していく存在になれるかどうか。

実現すれば、日本の経済の活性化にもつながるであろう重要な交渉なのです。

 

日EU・EPA交渉の具体的な内容は

EPA交渉において一番の問題点となったのはやはり関税撤廃に関する条項でした。日本は農産物を保護するためにTPPで示した数値がギリギリのLINEだと主張する中、EU側は完全撤廃を要求しています。また、日本は自動車産業や電子部品に関する関税撤廃を求めており、欧州側はそれに応じる姿勢を示しています。ただし、それは農産物に関する関税を即時撤廃することが条件になっており、それこそが交渉が進まなかった最大の原因でした。

しかし、EPAの内容を見てみると即時撤廃はしないものの15年かけてほぼすべての分野での関税撤廃が行われることが示されています。つまり、即時撤廃ではなく段階的な撤廃ということで合意に至ったというわけです。15年後には日EUは完全な自由貿易地域となっているのです。

それは日本にとってある意味チャンスとも言えますし、危機的状況であるとも言えます。その理由を次の項目で説明していきたいと思います。

 

日EU・EPAが日本にもたらす経済効果は

EPAによって関税が完全撤廃されることが意味するものは海外企業と同等な条件による競争社会の実現です。市場メカニズムにおいて関税は、競争を阻害する要因であり、国の産業を保護する役割を担います。その障壁であり保護する役割を完全に失うことで、競争力のない企業は廃業もしくは倒産に追いやられることでしょう。

日本が農業分野で関税撤廃を渋った理由はそこにあります。かつてWTOで決まった牛肉の関税撤廃によって、日本の畜産農家の3割が廃業に追い込まれたという歴史があります。それを繰り返したくないという思いから日本政府は農業保護に力を入れているのです。

しかし、この話は廃業に追い込まれたという話ばかりが表立って目立っているだけで、実は牛肉の生産量に関しては変化していないという事実があるのです。関税撤廃によって競争にさらされた畜産農家は、生き残りのために技術力を上げ、1つの畜産農家で多数の牛を飼育できる環境を生み出すことに成功しました。その結果、「神戸牛」は世界に通じる牛肉ブランドにもなっていますし、日本に牛肉を食べにくる外国人も増えています。

このように競争にさらされることは悪いことばかりではないのです。競争にさらされることで消費者はより品質の高いものが安価で手に入るようになります。確かに、その競争に敗れれば待っているのは経済危機でしょう。しかし、逆にEU企業との競争に勝つことで再び日本の経済は活性化することは間違いありません。大切なのは関税による保護ではなく、競争に敗れた人々が再び社会に復帰するための手助けであると私は考えています。

 

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日本の農業には本当に競争力がない?

日本の農業分野はTPPの時もそうでしたが、基本的に関税撤廃に反対の姿勢を示しています。しかし、私は日本の農家が世界の競争に敗れるとは全く考えていません。

確かに日本は世界に比べて土地が狭く、土壌に恵まれているわけではありません。しかし、それだけに農家の人々は独自の品種改良を重ね、ブランドを生み出してきました。そうしたブランドは世界に十分通じるものであると言えるでしょう。

実際に私の知り合いに、農家から土地を買い取って果物を海外に出荷している方がいますが、かなりの利益を上げることに成功しています。JAや日本の農家の人々は輸出のためのノウハウを知らないというだけで、そこを上手くやれば海外との競争でも生き残っていくだけの力は十分にあるのです。正直JAが海外に日本の農産物を売り出すことにもっと積極的になれば、こうした関税交渉などで渋ることも無くなると私は思います。

また、日本の農産物には安全性というどうしても譲れない一線が存在します。日本の消費者もそれに関してはとても敏感で、産地を気にした買い物をする人も少なくありません。TPP交渉の時の調査でも「海外産のお米と日本産のお米のどちらを買うか?」という質問に対して、ほとんどの人が「高くても日本産のものを選ぶ」と回答していました。

それだけ日本人の日本産に対する信頼は厚いのです。一部消費者が海外産に流れたとしても海外の消費者を取り込めばいいだけの話なのです。

 

まとめ

日EU・EPAの実現は世界規模の自由経済地域の誕生として世界中から注目を浴びることになるでしょう。もちろんすべての分野においてこちらに有利な協定ではありません。日本の企業は今まで以上に努力することを強いられますし、一定数の廃業や倒産は必ず発生します。

しかし、より良い経済成長のためには競争は必要不可欠なものです。競争がない社会というのは経済が停滞し、崩壊します。それは社会主義経済の国として一つの大国を形成していたソビエト連邦の崩壊という歴史が証明してくれています。

日本はほとんどの家庭が中流階級といわれてきました。しかし、近年は子どもの10人に1人が貧困層となるほど経済格差が拡大しています。それは競争社会において仕方のないことでもあります。

こうした格差を埋めるための社会保障費を賄うためには日本の経済豊かになり、税収を増やすほかありません。消費増税すら難しい中で、日本の社会保障支出は既に大赤字です。特に少子高齢化による高齢者の医療費は毎年のように増加しています。
そのための税収はどこから賄いますか?必要な支出が年々増加しているのに、消費税を増やさないでいられますか?

 

政府への不満は理解できますが、財源がない中で日本の社会保障はやりすぎとも言われるレベルなのです。そうした財源を補うための経済の活性化の策として、今回の日EU・EPAは期待できると私は考えています。

国による保障が当たり前と考えていると、ソビエト連邦のように自らを滅ぼすことになってしまいます。そしてその国の保障は、あくまで日本経済の活性化によって支えられているということを、私達は決して忘れてはならないのです。