近年、アジアの地域統合機関であるASEANに所属する国々が目立った発展を遂げています。

現在では10ヶ国(インドネシア、シンガポール、タイ、フィリピン、マレーシア、ブルネイ、ベトナム、ミャンマー、ラオス、カンボジア)が加盟するASEANですが、ASEANの正式名称は東南アジア諸国連合といい、人口は約6億3000万人です。

EU(欧州連合)の約5億人よりも人口も人口増加率も高い共同体となっています。

今後のアジア地域の発展は彼らの経済成長なしでは考えられません。日本もASEANの国々との関係を今後強化していくことになるでしょう。

しかし、ASEANは何を目的にしたどのような共同体なのでしょうか。欧州連合とはどのような点が異なるのでしょう。

そのような疑問を、なるべく分かりやすく解説して解決していきたいと思います。

 

 

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ASEANの歴史

かつて、ASEANの前身としてタイ、フィリピン、マラヤ連邦(現在:マレーシア)の3ヶ国によるASAという機構が存在していました。しかし、ASAは上手くいかずに凍結してしまいます。

そんな時にベトナム戦争が起こったことで、アジアで地域協力体制の強化の動きが高まっていきます。

さらに、ベトナム戦争を仕掛けたアメリカが東南アジア諸国の反発を懸念し、そのアメリカの支援のもとでシンガポールとインドネシアが加わり、1967年8月にタイのバンコクで「バンコク宣言」が行われASEANが設立されました。

 

しかし、発足以来しばらくはASEANとして大きな動きはありませんでした。

その理由としてはASEANが緩やかな統合による共同体であるということが挙げられます。アセアン統合の目的は大きく分けて以下の3つになります。

1.域内における経済成長、社会・文化的発展の促進
2.域内における政治・経済的安定の確保
3.域内諸問題における協力

これらに関して、EUのように条約を国内法化するといったような規定はASEANには存在していません。あくまで、自国の発展を最優先としたうえでの地域間協力といったあり方が長年のASEANの在り方でした。

それが変化し始めたのが1975年ASEAN経済閣僚会議(AEM:ASEAN Economic Ministers Meeting)からです。

制度化されたのは1977年からですが、ここからASEANの地域協力の分野が大きく拡大していきます。

AEMは名前の通り、経済分野での調整と実施を行うことです。ASEAN加盟国の経済目標を立て、それに対するレビューを行うことで互いに経済成長を促進していくために作られた仕組みです。

1987年には合同閣僚会議議(JMM:Joint Ministerial Meeting)という域内の諸問題に対する調整、協議をする仕組みが作られました。

このような年次報告や各国の取組みに関する評価を行うという仕組みは現在まで継承されており、ASEAN常任委員会(ASC: ASEAN Standing Committee)というASEANの活動そのものに関する評価をする仕組みも取り入れられるようになっています。

このような仕組みのもと、ASEANの地域協力は経済分野以外にも拡大していったのです。

そして、ASEANそのものが大きく変わったのが1997年のことでした。

「ASEANビジョン2020年」のもと、ASEANという一つの共同体を目指すということになったのです。その背景にはWTOの停滞、中国やインドの台頭といったものに加え、90年代後半に起こったアジア通貨危機がありました。

このような1国では対応できない問題を地域協力のもとで乗り越え、解決していこうということでより強固な共同体としてのASEANを目指すこととなったのです。

2020年までに「政治・安全保障共同体(APSC)」、「経済共同体(AEC)」、「社会・文化共同体(ASCC)」から成る「ASEAN共同体」を設立することを目標に、現在まで取り組んできたところです。

2007年には経済共同体(AEC)構想が順調に進んだことから、目標年次を2015年に前倒すことを発表し、2008年にはASEAN憲章が発効されました。

この共同体構想について次項で詳しく説明していきたいと思います。

 

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ASEAN共同体構想とは?

先ほども述べましたのでおさらいになりますが、ASEAN共同体構想は「政治・安全保障」「経済」「社会・文化」の3つの柱を持つ協力体制のことです。

「政治・安全保障」に関する目標は、政治協力を強化することで紛争予防および紛争の平和的解決を目指すことです。域内の平和構築を目指すだけではなく、ASEANと他国および地域との関係強化も目指されています。現在、147の行動項目が設定され、約87%(2015年時点)が実行済みです。

「経済」に関する取組みでは域内での物品、サービス、投資の自由化に積極的に取り組んできました。1992年には「ASEAN自由貿易地域(AFTA)」が創設され、物品に関する自由化が行われ、関税の撤廃に向けた取組みがされてきました。

2008年にはさらに包括的な取組みを推進していくために「ASEAN物品貿易協定(ATIGA)」が署名されました。

サービス分野に関しては1995年に「ASEANサービスに関する枠組み協定」によって段階的な自由化が行われてきました。

最後に投資分野においては1998年に「ASEAN投資に関する枠組み協定」(AIA)、投資の保護に関しては1987年のASEAN投資促進保護協定(IGA)にそれぞれ署名し、目標達成に向けて取り組んできました。

そして、2009年にこの2つの協定を1本化した「ASEAN包括的投資協定」(ACIA)に署名がされました。

現在のASEANの「経済」目標は「単一の市場・生産拠点」「競争力のある経済地域」「衡平な経済発展」「世界経済と統合」という4つの柱をもとに行われています。

2015年の段階で約90%以上が実施済みとのことからほぼ、達成したとみてもいい状況であると言えるでしょう。

最後に「社会・文化」分野の目標に関してみていきましょう。

ASEANにおける社会的・人間開発関連についての課題解決を目的としていますが、なんと399の行動項目が設定されています。

そのうち86%が実施済みであると2014年の報告でなされていますが、これに関しては個人的に疑念が生じています。

その原因はミャンマーのロヒンギャ問題です。

これに関しては明らかに非人道的な行動ともいえる行動をミャンマーがとっているにもかかわらず、ASEANそのものが行動を起こしていないのはなぜでしょうか。

年次報告が行われていながら、ミャンマーの問題に関する議論が今まで浮上しなかったことに個人的に疑問を感じざるを得ません。

加盟国である以上、ミャンマーの問題もASEANとして対応していかなければならないはずです。世界中で報道され、問題となっている現在、ASEANがどのような動きを見せるのか注目してみていかなければならないでしょう。

今回の件についても問題ないとされるのであれば、他2つの分野の報告に関しても現実との乖離が起こっている可能性も否定できなくなるでしょう。

 

参考>>ミャンマーのロヒンギャ問題とは。原因と現状をわかりやすく

 

 

まとめ

ASEANという共同体は拘束力が緩い分、現実との乖離が起こっている可能性は否定できません。事実、EUの統合のように社会政策分野の統合や移動の自由、通貨統合なども行われていません。

その分、1国の権限はまだまだ強く、統合というよりは地域協力関係という表現が性格なのでしょう。

 

確かに、ASEAN地域の経済発展および経済の自由化に関する取組みは評価できると言えます。しかし、その報告書や評価方法に関する疑念がある以上、ASEANの共同体構想は完全に成功したとは言えないというのが私の考えです。

毎回議長国が変わることからもわかるように、ASEANにはリーダー的存在がいません。域内の国が互いにけん制し合うことで成立しているのです。

さらに、ASEANにはASEAN+3やASEAN+6、東アジアサミットといった域外の国を交えた枠組みも存在しています。更に今後TPPやAPECといった新たな枠組みも加わっていく事で、より複雑化しているという印象を受けます。

そういった中でASEANと一言で言っても、一枚岩ではいかない存在であると言えるでしょう。

 

しかし、ASEAN諸国の経済発展が目覚ましいというのは事実です。

だからこそ、ASEANが今後どこの国や地域との関係を強化するかによって世界の経済関係は大きく変化すると予測されます。

日本もそれに乗り遅れないよう、彼らとの関係を今後より一層強化していく必要があるでしょう。