2017年7月7日に「核兵器禁止条約」122ヶ国・地域の賛成多数によって採択されました。その時に参加していた国は124ヶ国であったのですが、NATO唯一の参加国であるオランダは反対。シンガポールは棄権をしたため、そのような結果になりました。

日本は元々「核保有国と非保有国との間の溝を深める」という理由からこの条約に反対の姿勢をとってきました。しかし、日本は唯一の被爆国であり、被害者の気持ちを考えれば核兵器の恐ろしさを世界に広め、廃止の方向に働きかけていくべき役割を担うべき国でしょう。

広島や長崎で被爆した国民もまだ生き証人として日本に数多く存在しています。その人たちの気持ちを思えば日本はこの条約に批准するだけではなく、むしろリーダー的立場に立たなければならない国でしょう。そんな日本がなぜこの条約に署名しないのでしょうか。

今回は日本が「核兵器禁止条約」に署名しない理由をわかりやすく解説していきたいと思います。

 

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核兵器禁止条約とは?

この条約は核兵器の保有を否定するものではなく、核兵器の使用を二度と行わないために作られた条約です。新たな実験を行ったり、数を増やしたりすることを禁止する内容も明記されています。

日本も非核三原則があるため、この内容に関しては問題なく批准できるでしょう。

しかし、問題となるのは核保有国に対する支援も禁止されているということです。日本は米国と同盟関係にあります。米国は核保有国であるので、もし米国が核を使わざるを得なくなった時に日本は彼らを支援しなければならない立場にあります。日本の安全保障は米国があるからこそ成り立っています。

 

賛成国と反対国の特徴

核兵器禁止条約に賛成した122ヶ国は以下になります。

 【アジア】 バングラデシュ ブータン ブルネイ カンボジア インドネシア カザフスタン ラオス マレーシア モンゴル ミャンマー ネパール フィリピン スリランカ タイ ベトナム 東ティモール

【太平洋】 フィジー キリバス マーシャル諸島 ニュージーランド パラオ パプアニューギニア サモア ソロモン諸島 トンガ バヌアツ

【中東】 アフガニスタン アゼルバイジャン バーレーン イラン イラク ヨルダン クウェート レバノン オマーン カタール サウジアラビア アラブ首長国連邦 イエメン パレスチナ

【中米・カリブ海】 アンティグア・バーブーダ バハマ ベリーズ コスタリカ キューバ ドミニカ共和国 エルサルバドル グレナダ グアテマラ ハイチ ホンジュラス ジャマイカ メキシコ セントクリストファー・ネビス セントルシア セントビンセント・グレナディーン トリニダード・トバゴ パナマ

【アフリカ】 アルジェリア アンゴラ ベナン ボツワナ ブルキナファソ ブルンジ カボベルデ チャド コンゴ共和国 コートジボワール コンゴ民主共和国 ジブチ エジプト 赤道ギニア エリトリア エチオピア ガボン ガンビア ガーナ ギニアビサウ ケニア レソト リベリア マダガスカル マラウイ モーリタニア モーリシャス モロッコ モザンビーク ナミビア ナイジェリア サントメ・プリンシペ セーシェル シエラレオネ 南アフリカ共和国 スーダン トーゴ チュニジア ウガンダ タンザニア セネガル ジンバブエ

【南米】 アルゼンチン ブラジル チリ コロンビア エクアドル ガイアナ パラグアイ ペルー スリナム ウルグアイ ベネズエラ ボリビア

【欧州】 オーストリア キプロス バチカン アイルランド リヒテンシュタイン マルタ サンマリノ スウェーデン スイス モルドバ

これらのどの国も、現時点で核兵器を保有していません。

そして冒頭で申し上げたように、賛成しなかったのはオランダとシンガポールだけだったのですが、それ以外の国々はそもそも参加すらしていません。

 

これは条約に対しての明白な「NO」という意志表示なわけですが、なぜ、そこまではっきりした態度を取るのでしょうか。

 

反対の国々はなぜ反対の立場を取るのか

まず、日本を例に挙げてみたいと思います。

米国の軍事力は世界の知るところです。それは核兵器を持っているからということも理由の一つに挙げられます。日本はその核兵器によって間接的に守られている状況にあります。それは勿論米国と同盟を結んでいる国すべてにいえることでしょう。だからこそ、米国という核の傘の下で守られている国々はこの条約に署名することが出来ないのです。そうなれば米国の機嫌を損ね、同盟関係にひびが入りかねません。

 

東アジア各国はお世辞にも親密な関係とはいえません。むしろ領土問題などで争うことも増えています。そんな状況で日本が米国の軍事力を失うと考えただけで恐ろしいことになると思いませんか。日本は軍を持たない以上、米国との同盟にすがらなければ他国からの侵略を防ぐのは難しいでしょう。

そう考えると、日本が今回の核兵器禁止条約に署名しないのは「しないのではなく、出来ない」という表現が正しいでしょう。その背景には、日本自体は核を保有していなくとも、核の力によって守られているという事実があるのです。

 

そしてもちろん、核の傘はアメリカのものだけではありません。

ロシア・イギリス・フランス・中国・インド・パキスタン・北朝鮮・イスラエル

これらが現在のところ核を保有しているとされる国々ですが、これらの国々に守ってもらうような関係である国々には、当然同じことが言えます。

 

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核保有国が批准しない条約に意味はあるのか?

核兵器禁止条約は50か国が批准したのち50日後に発効されます。しかし、核保有国と呼ばれる9か国、及びその同盟国はいずれも署名すらしていません。そんな条約に意味があるのか疑問に感じるのも当然でしょう。

しかしこれに対し私は、「一見すると意味がないように感じられるが、実は意味があるのではないか」と考えています。

確かに、あくまで条約には拘束力がありませんし、批准したからといって何かが変わるというわけでもありません。

しかし、今回の条約をきっかけに核兵器というものの恐ろしさを多くの国に知ってもらうきっかけになりました。日本の広島・長崎の原爆投下に関して米国では肯定的な見方がいまだに根強いです。ですが、いくら正義の名のもとであろうと核兵器によって罪のない民間人が大量に犠牲になったという事実は変わりません。

今回条約に参加した国々は、その日本への原爆投下のことについても勿論説明を受けて知っています。それを知ったうえで二度とそのような歴史を起こさないと共感してくれた国々なのです。

つまり、条約を通じて核兵器がどんなに危険なものであり、犠牲者がどんなに悲惨な思いをして生きて来たかということを世界に広めることに成功したということです。それだけでもこの条約が採択されたことには大きな意味があるでしょう。

 

また、核兵器を持っていない・同盟国の核の傘に守られていないという国の多くが、核兵器禁止条約に対して賛成をしたことは、世界平和の一歩であるという捉え方もできなくはありません。

何故なら、

「自分達の身は自分達で守らなければならない」

という考え方であれば、賛成はしないからです。

つまり、

「世界で足並みを揃えておけば、いざとなったら国際機関に守ってもらえるから」

という、国際機関に対しての信頼が、今の世界には明らかに存在しているわけです。

これは地味に大きな意味のあることだと思います。

そしてもともと核を持とうと思っていた国が、今回の核兵器禁止条約を期にやっぱりそれをやめようと考えた可能性もなくはありません。

そう考えると核兵器禁止条約は、間接的にではありますが平和に貢献しているという捉え方もできると思います。

 

まとめ

核兵器のような人類を滅亡に追いやる可能性のある恐ろしい兵器は、もちろんないに越したことはありません。しかし、この世の中はそんなに単純ではなく、各国様々な事情があるのです。

それはもちろん、日本にも言えることです。

日本は唯一の被爆国でありながらも核の傘の下で守られている国に属しています。そのため、核兵器の恐ろしさを一番理解しつつも、米国との関係から核兵器の廃絶に関して大きな声で主張するのは難しいでしょう。

ましてや広島・長崎の原爆投下を正しいこととして認識している米国人が圧倒的多数である以上、米国への反発ととられかねない行為です。そうなってしまえば日米同盟の存続すら危うくなりかねません。そうなった時に困るのは米国ではなく、日本です。

トランプ政権になり、米国の右翼化も進んでいる中で米国に逆らうような態度をとるのは完全に悪手です。感情的に複雑なところもあるとは思いますが、国民の安全を第一に考えるのであれば政府は米国に逆らうという判断は出来ないでしょう。

しかし、条約に参加しないからと言って核兵器を肯定的にとらえているわけではありません。その証拠に日本には「非核三原則」がありますし、核開発を行う北朝鮮の制裁決議にも参加しています。それは他の核保有国や核の傘の下で守られている国々も同じです。条約に参加しない=核兵器の肯定ではないということだけは留意しておきましょう。