加計学園問題では、前文部科学事務次官の前川喜平氏が情報をリークし、一躍マスコミの寵児となりました。しかし悪事を暴く正義のヒーローかと思いきや、一転して売春まがいの出会い系バーに通っていたことが発覚するなど、前川氏への評価は様々です。

ところで、前川氏の名前が初めて大きくマスコミに取り上げられたのは、実は二年前に発覚した「文部科学省職員の天下り問題」のときでした。そして、加計学園問題も、その天下り問題の延長上にあるのではないか、と見る向きもあります。

というわけで、ここでは「天下り」の意味や問題点、メリットやその裏事情等をわかり易く解説してみました。

 

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天下りの意味と問題点とは何か

「天下り」とは、まず一言で言えば

大きな組織を勤め上げて退職する人が、関連企業や団体に再就職すること

です。

それがマスコミ等で問題視される理由は、公務員が退職する際に、在職時の影響力を行使して再就職したり、その後も官庁に対して影響力を及ぼすことや、再就職を繰り返すことで何度も退職金を得る行為が散見されたからです。

また、天下りを受け入れる組織が公益法人や学校法人など、国からの補助金を受けて運営されている場合には、無駄に税金が使われることに繋がるために批判の対象となるのです。

これらの行為は国会でも大きく取り上げられ、天下りを一掃するため、2008年には公務員制度改革基本法が成立。国家公務員の適正な再就職を実現するために官民人材交流センターを設立するのと並行して、再就職規制を強化するために国家公務員法の一部を改正するなどの改革が進められました。

この結果、国家公務員については「他の職員・元職員の再就職依頼・情報提供等規制」「現職職員による利害関係企業等への求職活動規制」「再就職者(元職員)による元の職場への働きかけ規制」3つの規制が敷かれることになったのです。

1つめの規制で、これから退職する職員を天下りさせるために、役所の側から起業に向けて情報を流して求人を募ることを禁止し、2つ目の規制では本人が公務員として影響力を持っている企業等に対して「再雇用してくれ」と圧力をかけることを禁止し、3つ目の規制では、再就職後に出身官庁に対して「補助金をくれ」等と要求することを禁止しています。

なお、ハローワークや官民人材交流センターを介しての再就職や、広く公募している業務に応募するのであれば、1つ目・2つ目の規制の対象外となります。これは、公務員以外の人と同じ条件で求職することまで規制すると、憲法で保障された職業選択の自由を侵すことになりかねないためです。このあたりのバランスが難しいところですが、3つ目の規制とセットで考えると、1つ目・2つ目の規制によって他の人よりも有利な手段で再就職することを禁止し、3つ目の規制によって再就職後の不正行為を防ぐことが可能になっているのです。

 

 

文部科学省の不正な天下り

ところが、文部科学省では、1つ目の規制をすり抜けるために、新たな団体を設立して、限りなく黒に近いグレーな天下りをさせていたのです。

その手口は、「文部科学省の人事課OB職員に法人を設立させる」「天下りさせたい職員の情報をその法人に渡す」「その法人が代理して大学などに対して求職活動をする」というもの。

つまり、文部科学省や退職予定の本人が禁止されている行為(1つ目・2つ目の規制)を代理するための専門の団体を立ち上げていたのです。

これは、法律に違反する行為ではないものの、一連の国家公務員制度改革の趣旨を踏みにじる行為であり、非常に悪質です。

しかも、天下り先はほとんどが学校法人です。学校法人には多額の補助金(運営費交付金や研究費など)が交付されていますから、旧来から批判されている「悪しき天下り」の典型なのです。

そして、文部科学省は運営費等の交付だけではなく、学校の設置認可や、学部定員の管理という強大な権限を持っていますから、学校法人は文部科学省のご機嫌を損ねることができません。運営費の交付だけでも大きな力なのに、そもそもの設置認可の権限まで握られているのですから、圧力を掛けられたら言いなりになるしかないのです。

そして2015年にこの一連の不正行為が発覚し、責任を問われた当時の事務次官だった前川氏は辞任することになったのでした。一部では、この辞任劇に逆ギレした前川氏が、意趣返しのために加計学園問題で暴言を吐いているのではないかと疑われているのです。

 

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天下りの裏事情

文部科学省の手口は悪質ですが、そもそもなぜ天下りをしなければ(させなければ)いけないのかを考えると、仕方のない事情もあります。

第一に、高級官僚と言われるような霞が関のキャリア公務員は、東京大学をはじめとした高学歴とされる大学の出身者で占められています。民間企業に就職した大学の同期は、数年で年収一千万を超えるような待遇ですが、国家公務員の給料は民間企業の平均額とされていますから、一千万円を超えるのは勤続20年以降でしょう。生涯年収で計算したら、相当な差が開くのは確実です。せめて退職後に相応の収入を補填したい、という思惑が働いているのも無理もないことです。

 

第二に、霞が関のキャリア官僚は、早期退職を迫られる運命にあるという事情があります。省庁によって、また採用年次によって採用人数は違いますが、毎年数十人の優秀な学生を採用しますが、最終的に事務次官まで上り詰めるのはたった1人だけです。しかも、誰かが事務次官を2年務めた場合は、次の年次からは事務次官が生まれないことになります。

この出世レースのふるい落としは、課長昇進後に始まるのですが、各省庁で毎年数十人の優秀な官僚が退職を迫られるのです。退職を迫る側の省庁としても、せめて再就職先を用意してあげたい(1つ目の規制に抵触)し、退職させられる本人にしても、再就職口を見つけようと思ったら日ごろから付き合いのある民間企業にお願いしたい(2つ目の規制に抵触)ですし、その際には、就職後でも出身省庁に対して顔が効くこと(3つ目の規制に抵触)を手土産にしたいのも、自然な考え方ではあると言えるのではないでしょうか。

 

第三に、これは民間企業の人でも自営業の人でも同じことですが、仕事で長年関わっていた分野に関する知見は、相当なものがあります。例えるなら、長年畑を耕して野菜を作っていた農家さんが廃業するとき、再就職するなら農業や野菜に関係する分野で働くのが普通です。とりわけ、霞が関のキャリア官僚なら、その分野のことについては日本でもトップクラスの専門家です。補助金を受けられるとか、申請すればノーチェックで通してもらえるといった不正な口利きをしてもらえないとしても、関連業界の企業であれば、喉から手が出るほど欲しい人材でしょう。

 

まとめ

このように考えると、天下りが絶対的な悪という訳ではなく、天下りをきっかけとして様々な不正が行われることが良くないのだということが分かります。

おそらく、今後も天下りに関する事件や報道は無くならないと思われますが、その時は、本当に悪いことをしているのか、はたまた仕方ない事情があるのか、自分のことに置き換えて考えてみてはどうでしょうか。

少なくとも

「天下りは完全に禁止にすればよい」

と安易に結論を出せるほど単純な問題ではない、ということです。