衆議院が解散されたとき、野党からは「大儀無き解散だ」「疑惑隠しの解散だ」との批判が繰り広げられていた加計学園問題ですが、その後の新党立ち上げなどですっかり影が薄くなってしまいました。

森友学園の問題は前理事長夫妻が逮捕されるなど、事件としての処理が淡々と進んでいますが、加計学園問題とはいったい何だったのでしょうか。もう一度要点を確認しながら振り返ってみると、また違った事実が見えてきました。

 

問題の経緯

いわゆる「加計学園問題」とは、学校法人加計学園が、愛媛県今治市内に岡山理科大学獣医学部を新設しようとしている一連の手続きに関する話題です。

今治市は、1985年から市内に大学を誘致するために活動していましたが、そもそも人口の少ない地域等こともあり、なかなか大学経営者からの応募がありませんでした。そんな状況で、2005年になってようやく応じたのが加計学園だったのです。

一方でちょうどこの頃、九州を中心に口蹄疫や鳥インフルエンザが猛威を奮っていたのですが、愛媛県内では公務員獣医師が不足していたこともあり、県知事は獣医学部の新設が必要だと考えていました。

これを受けて今治市は、獣医学部を新設するため、2007年から文部科学省に申請を続けていました。ただ、文部科学省は獣医学部の新設のための申請書を受理しない方針を取っていたため、今治市は通常の申請ではなく「構造改革特区(通常では規制されていることを、地域限定で規制を取り払う制度)」の枠組みで提出したのです。ところが、この申請は15回連続で却下され続けました。

2012年になると、第二次安倍政権が発足し、アベノミスク第三の矢として「規制緩和」の方針を打ち出します。従来の構造改革特区だけではなく「国家戦略特区」という新たな制度を設けて、更なる規制緩和を進めることになったのです。

そして今治市は、16回目はこの国家戦略特区の枠組みを活用して申請し、その結果、2016年に今治市内への獣医学部新設が可能となりました。

 

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問題とされたポイント

野党から提示されたそもそもの「疑惑」は

『加計学園理事長と安倍総理は長年の友人関係であり、獣医学部新設にあたって何らかの影響を与えたのではないか』

という、この一点に尽きます。

この点を追求する中で、文部科学省から文書が流出したり、週刊誌を通して様々な情報がリークされ、新聞紙上で元事務次官が出会い系バーに通っていたことが報じられるなど、様々な情報があふれ出してきました。

ところが、当初の「疑惑」について、総理が『影響を与えていない』ことは証明が不可能(悪魔の証明)ですから、勢い「言ったもの勝ち」という報道になりがちだったように思います。やったことを「やった」と証明するのは簡単ですが、やっていないことは証明できない。それなのにいつまでも追求が続いたので、このように長引いているのではないでしょうか。

 

埋もれた問題点の検証

冷静になって時系列をもう一度確認してみると、実は申請を受ける側の文部科学省側にも多くの問題があるようです。いくつか取り上げてみましょう。

 

申請を門前払いしている

大学の学部を新設するかどうかを判断するのは文部科学省の所掌事務です。具体的に新設を認めるかどうかは審議会で決定するのですが、なぜか獣医学部については「申請を受け付けない」という方針を取っています。

実は、このことが大きな違法性を孕んでいるという指摘があります。

つまり、「文部科学省は学部新設を認めるか認めないか」という仕事をしなければならないことが法律(文部科学省設置法)で決められているのに、その仕事をしていないのだから、それは違法である、ということです。

確かに、申請を受け付けないというルールは、文部科学省が決めた「告示」で決定されているだけで、自分が「やらなければいけない仕事」を「やらないルール」を勝手に決めているのですからおかしなことです。

申請を受け付けた上で、審査した結果、不合格となるならまだしも、申請自体を受け付けないというのは、完全な違法行為でしょう。

 

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挙証責任を果たしていない

挙証責任とは、事実を証明する責任のことです。

ここでは、文部科学省が獣医学部が今以上は不必要である証明を示すことになります。

国家戦略特区として申請された議案は、国家戦略特区諮問会議やその下に設けられるワーキンググループで審議されます。この際のルールとして、規制撤廃を求められた官庁は、規制を残したいなら「規制を残すべき理由」を説明しなければいけないというルールで審議されています。

文部科学省は「獣医学部の新設を認めない」という立場ですから、なぜ獣医学部を新設しないのかを説明しなければなりません。このためには、現在の獣医学部の定員で十分足りていること、つまり「獣医学部に入学したい人が、既存の学部定員以上は存在しない」ことを証明しなければいけませんが、実際の受験倍率が1以下にはなっていませんので、説明できないことは明らかです。

このため、文部科学省は「獣医師は十分に足りている(余っている)」という理屈で説明しようとしますが、獣医師試験の管轄は農林水産省ですから、獣医師が足りているかどうかは文部科学省には証明ができなかったのです。このワーキンググループで説明した農林水産省は「足りなくもないし、余ってもいない」という、完璧な答弁を残しています。

そもそも、獣医学部を卒業した学生が全員必ず獣医師にならなければいけないという道理もありません(法学部を卒業しても、法曹に進まない学生がたくさんいるのと同じです)から、獣医師の需給状況は関係無いのですが。

ともあれ、文部科学省は獣医学部を新設しない理由を説明できなかったのです。ここで挙証責任を果たせない場合、規制を緩和するという国家戦略特区のルールがあるので、そのとおりに規制が緩和されて許可したのであれば、特におかしなことではありません。

 

獣医師会との癒着

そもそも、文部科学省が獣医学部の新設を認めないのは何故でしょうか。これは既得権益を守るための力が働いているからなのです。ここでいう既得権益とは、すでに獣医師として開業している獣医さんたちの稼ぎのことです。

せっかく動物病院として開業したのに、近所で他の獣医さんが開業したら、自分の動物病院に来るお客さんが減ってしまいます。しかも、それは一軒の動物病院だけの問題ではありません。全国の動物病院として考えたら、国内で動物病院が新たに開業するということは、顧客の奪い合いが始まることを意味しています。

このため、獣医さんの利益を守るための団体である「日本獣医師会」が、何らかの影響を与えたのではないかという疑いがあるのです。

前項にも書いたとおり、獣医師試験の管轄は農林水産省ですが、これは一定の知識や技術を持っていれば合格できる試験ですから、どんなに影響を与えようとしてもどうにもなりません。そこで、獣医学部に入学しづらい状況にしてしまえば、獣医師になれる人数を絞ることができると考えたのでしょう。

癒着している、という明らかな証拠はありませんが、獣医師会からの献金を受けた議員は獣医師会の利益になるような活動をしています。

・菅官房長官が「怪文書のようなものだ」と言って問題になりましたが、文部科学省職員の流出させたメモを国会質問で取り上げた民進党の玉木雄一郎は、父と兄が獣医師であり、日本獣医師会から100万円の献金を受けている。

・国家戦略特区の検討が長引いた一つの原因として、石破茂(当時の特区担当大臣)が特区認定の条件を厳しくしたという事実があるが、日本獣医師会から石破大臣の資金管理団体へ100万円の寄付があった。

もちろん、これらの政治献金は法律の範囲内で行われているため、何も問題はありません。ただし、癒着を疑わせるのに十分な事実であることも間違いないでしょう。

 

まとめ

今年前半は、ニュースもワイドショーもいわゆる「モリカケ問題」で盛り上がっていましたが、報道されていた内容とは少し違った切り口で再検証してみました。マスコミは、疑惑がある、という切り口で放送した方が視聴率を稼げますので、どうしても下世話な内容になりがちです。

ニュースで報道されたことだとしても、内容を一つづつ検証してみると、また違った事実が見えてきて面白いですね。