幼児教育の無償化って何でしょうか。

先日の衆議院議員選挙では、与党(自民党と公明党)が「幼児教育の無償化」を政権公約として掲げていました。そもそもの解散理由もここが出発点だったのですが、ご存知でない方もいると思います。

というわけで、ここでそのメリットとデメリットを取り上げていきます。

 

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「幼児教育の無償化」の制度概要(メリット)

選挙のきっかけである衆議院解散の際に開かれた記者会見で、安倍総理は

「2020年度までに、3歳から5歳まで、すべての子どもたちの幼稚園や保育園の費用を無償化する。0歳から2歳児も、所得の低い世帯では全面的に無償化する。」

「(消費税の)増税分を借金の返済ばかりではなく、少子化対策などの歳出により多く回す」

と表明しました。

現在の幼児教育関係の政策を見ても、保育園の保育料については一定の軽減策が図られています。例えば、同時に複数の子どもを保育園に預ける場合、2人目の保育料は半額になりますし、3人目以降は無料です。しかも、この軽減策には所得制限がありませんので、貧乏な家の子でもお金持ちの家の子でも、3人目は無償で保育を受けることができるのです。

また幼稚園に通う場合にも、一定の補助を受けることができるのですが、この場合は「所得制限」がありますので、ある程度の収入がある世帯の場合は、全額負担する必要があります。

つまり、幼児教育を無償にすることだけが目的ではなく、この保育園と幼稚園の間の格差を無くそう、というのが「幼児教育の無償化」のひとつのモチベーションとなっているようです。

 

幼児教育無償化の反対理由(デメリット)

ところが、この幼児教育の無償化を実施するためには、非常に高いハードルが待ち構えています。

 

財源の問題

内閣府の試算によれば、総理が表明したとおりに3~5歳の子ども全員の幼稚園や保育園の費用を無償化する場合は、年間で7300億円が必要となります。

さらに、0~2歳児の保育費を無償化する場合は、所得の低い世帯に限ったとしても年間で4400億円かかるため、両方を合計すると1兆1700億円が毎年の支出となるのです。

国全体の年間予算が約100兆円で、借金が1000兆円を超えている状況ですから、おいそれと1兆1700億円もの支出を増やすわけにはいかないでしょう。

 

消費税増収分の使途変更

そもそも、平成31年に消費税を2%引き上げる際には5兆円の増収がみこまれているのですが、このうち1兆円を社会保障の充実に充て、4兆円は借金の返済に充てるという予定なのです。

政府はこの借金の返済に充てる4億円の予定を変えて、2兆円を教育や子育て支援に使うことにして、その内の1兆1700億円を幼児教育無償化に充てようと考えているようです。

でも、これはかなり、というか非常に大きな方針変更ですし、そもそも借金の返済に充てるつもりだった分を他の目的で使おうということですから、慎重に検討しなければいけません。しかも、借金の返済を後回しにするということは、子供たちの世代にツケを回すことになってしまうのですから。

また、政権公約に掲げて選挙に勝利したからには、平成30年度予算でもそれ相応の施策を実現するべきなのですが、消費税の引き上げは平成31年10月です。

引き上げの効果が表れて財源とすることができるのは平成32年度からです。この平成30,31年度の財源をどこから捻出するか、という問題も解決しなければいけません。

 

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子育て世代も微妙な反応の理由

その上、そもそも今回の「幼児教育無償化」という政策については、子育て世代からの評判もあまり芳しくありません。それは、

「どうせ子育て支援を充実化するなら、幼児教育を無償にするよりも、幼児教育の環境充実化(待機児童の解消)をしてもらいたい」

ということです。

現実的には、子どもが1歳になるまでの間の育児休業は充実してきましたし、育児休業の期間を3歳になるまで伸ばすための制度も開始されています。ところが、子供が1歳になったときや3歳になったときに預ける先が無いという「待機児童」が問題になっているのです。

子どもを預けられれば会社に復職できますから、教育費はそれほど大きな問題ではないのです。預ける先が無いから復職できず、そのまま退職することになり収入も減る、という結果になっているのです。

もしくは、公設の保育所に預けられないので、保育費が割高な民営の保育所に預けることになったり、遠くの保育所に預けるために時間が足りなくなったり、そもそも保育所の数が足りていないことが、問題の根底にあるのです。

 

最後に

このように、幼児教育無償化は多くの子育て世代にとって非常に有難い政策なのですが、国全体で見た場合はその代償は大きく、また何か微妙な気持ちになっている親御さん達もいるのです。

ただ、実際には現在の待機児童を解消するためには、財源の問題以外にも「保育所」という施設を整備しなければならず、「保育士」を養成しなければいけませんから、すぐに解決することはできません。

それならば、まずは財源さえ確保すれば可能な幼児教育の無償化から実現する、という判断自体はそれほどズレたものではないとは思います。

待機児童の解消は同時進行で進めていけば良いですからね。

その一方で、消費増税の借金返済分を回すというのは、果たしてどうなのかというのはありますが。借金はいつ返すんだって感じで、そもそも返していくつもりはあるのでしょうか(笑)