英国は議院内閣制発祥の地です。日本の議院内閣制も英国の制度を参考にしている部分が多々あります。

ただし日本と違う点があるとすれば、英国は二大政党制という制度によって100年以上安定した政治が続けられてきたことです。

しかし、近年は英国のEUからの離脱から見てもわかるように、その政治制度が不安定になりつつあります。英国の制度を真似している日本もこのままで本当に大丈夫なのでしょうか。

日本は英国と違い自由民主党による政権が長いこと続いており、政権交代は戦後3回しか行われておらず、それも短期間です。そういった点では安定性があるように見えますが、自由民主党政権に不満を抱える人がいることも事実です。そういった人々の声はどこに向かうのでしょう。

それが憲法改正の国民投票に表れるのではないかと私は危惧しています。国民投票の意味するものとは。それを英国のEUからの離脱の例を参考に今後の日本にも起こりうる事案を予想してみました。

 

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英国のEUからの離脱の国民投票は行われた理由

EUからの離脱の賛否を問う投票は2013年1月にキャメロン元首相によって提案されたものでした。そうでなくとも2010年に保守党に政権交代して以来、英国では国民投票や住民投票が頻繁に行われるようになっていました。その理由は保守党内でのヨーロッパ懐疑主義の高まりにあります。

2013年時点では与党である保守党の実に4分の3がヨーロッパ懐疑主義に属しているという研究結果をティモシー・ヘッペルが出しています。だからこそ党内の結束力が弱まり、議会で結論を出すということが難しくなっていました。

その結論を国民に委ねるという選択を、キャメロン元首相がしてしまったことが大きな間違いでした。

当時の英国政治は既に過去のような安定性を失っていました。1999年に地方議会に権力を与えて以来、英国では二大政党制の在り方が問われてきました。2004年には欧州議会選挙で英国国民党(UKIP)が議席を伸ばし、2014年の欧州議会選挙では第1党になるほどに勢力を伸ばしていました。それは欧州議会選挙の投票方法が比例制度に基づいて行われるためです。

しかし、ここで2015年の総選挙の結果を見てみましょう。

2015年総選挙の議席数の表

出典:近藤康史『分解するイギリス―民主主義モデルの漂流』ちくま新書、2017、245頁。

 

英国の総選挙は小選挙区制度です。

日本と同じく各選挙区に代表者を立て、住民は自分の住む選挙区の代表者を選ぶ形式になっています。その結果、2015年の総選挙ではUKIPは全体で12.6%の支持を獲得しているにもかかわらず、1議席のみの獲得に終わってしまっています。

左にもし比例制度だったらの場合の結果が書かれていますが、大きく隔たりがあることがわかります。

だからといって比例制度が良いと言っているわけではありません。比例制度だと保守党は過半数を得られないので連立政権にならざるを得ません。英国の議席の過半数は336議席なので保守党は単独過半数に届いていませんが、単独政権で今まで執政を行っています。

英国人は連立政権を嫌う傾向にあるため、こうせざるを得なかったというのが私の考えです。比例制度に帰れば英国人の嫌う連立政権を誕生させざるを得ません。

ただでさえ党内の一体性が失われているのに、他の党と結託するということが果たして英国の政党で可能なのでしょうか。

ただでさえ100年以上二大政党制によって支えられてきた地盤が選挙制度一つで覆ってしまいかねないのです。そうすれば政治の安定性は失われ、さらに議会での話し合いが進まなくなることは必須でしょう。

しかし、小選挙区制度によって多くの死票が出ているのも事実です。それは日本も同じことが言えるのではないでしょうか。

 

≪選挙制度について≫

選挙制度のわかりやすい解説(衆議院・参議員の違いや問題点等)

一票の格差は違憲?重みの差を是正する解決策の問題点とは

 

日本の選挙制度と浮いた民意の行方

日本の選挙制度は小選挙区比例代表制です。

先ほどの英国の小選挙区制度に加えて支持をする党に直接投票する比例代表制を組み合わせています。そうしたことで、小選挙区で票を集められなかった人も復活当選が出来る仕組みになっています。

この制度に関する問題は各所で取り上げられているので割愛しますが、問題は落選してしまった議員に投票して死票になってしまった人々の民意です。投票に行っても自分の1票程度では政治は変わらない。

ましてや日本は自民党の1強政権です。他の党に投票しても期待できないということからも白紙投票をする人やそもそも投票に行かないという人々が増加しています。今回の選挙も53.60%と戦後2番目に低い数字となっています。

台風が重なったとはいえ、約半分の有権者の民意で決まった政治家によって重要な法案が決定するのは、果たして問題ないと言えるのでしょうか。

 

現在、特に問題となっているのは憲法改正についてです。

憲法改正に関しては国会議員の衆議院で100人以上、参議院で50人以上の賛成によって原案を発議することが出来ます。衆参で単独過半数を獲得している自民党は十分にこの条件を満たしています。

その後、憲法審査会で審査されたのち本会議に入り、両院の本会議でそれぞれ3分の2以上の賛成をもって可決したのちに憲法改正の発議が出来るのです。その後その内容に関して国民投票が行われます。その国民投票で国民の過半数が賛成すれば憲法が改正されます。

ここで思い出してほしいのが英国の事例です。

英国ではEU離脱を問う投票を行った際に離脱派と残留派が僅差でした。しかも、投票率は約72%だったために、投票に行かなかった有権者次第では結果が覆る可能性がありました。

そのため、これがEUからの離脱に関する賛否の意見がまとまるどころか、英国で炎上する原因となりました。これを火種にスコットランドの独立問題が再燃したり、北アイルランドもアイルランドと統合したいという主張が見られるようになりました。

こうした問題が日本でも起こる可能性があります。

もし、憲法改正に関する投票結果が僅差だった場合、英国と同じく憲法改正の議論を中心に国内が分裂してしまうことを私は危惧しています。

 

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まとめ

英国のEU離脱という問題は遠い問題のようですが、英国の制度をまねた政治制度をとっている日本も他人ごとではありません。

ましてや戦後初めて憲法改正という大きな決断を迫られている中で、国民投票が行われたとして結果はどのようになるのでしょうか。私はこれを火種に国内でデモが活発化して治安が悪化するのではないかと危惧をしています。

実際、安全保障法案の際も各地でデモが起こり、反対運動を繰り広げていました。しかし、そういったデモ活動ばかりが目について、賛成派の意見を全く見かけなかったというのも当時不思議でなりませんでした。

どんな時も反対派の声は大きく、テレビでもそちらの意見が多数のように思われます。しかし、主張をしない賛成派の存在があるということを忘れないでほしいと私は思うのです。

 

英国事前の報道では反対有利として報道していたメディアがいました。

米国のトランプ政権もあり得ないと批判したメディアがいました。

しかし、それが実現してしまっているのです。

もちろん、マスコミの言うことすべてが当てにならないとは言いません。しかし、それを根拠に自分が投票に行かなくてもいいなんてことにはなりません。僅差で負けて後悔しないためにも、もし憲法改正の国民投票が行われたら必ず投票しに行くべきだと思います。

今回ばかりは、今後自分たちの後の世代にも関わってくる重要な選挙です。

だからこそそれまでに批判の意見ばかりに耳を傾けず、賛成派の意見もきちんと聞いたうえで、公平に判断して自分の意見を持てるようにしておくべきではないでしょうか。