ドイツがフランスと並んでEUのリーダー的存在を担っているということは皆さんご存知であると思います。

しかし、近年はギリシャ危機に始まり、難民の大量流入や英国のEU離脱といったような問題が起こり、それは未だに解決の兆しは見えません。更に、その問題をきっかけにEU各国で右翼政党が台頭し出しており、EUが一つの共同体としてやっていくための問題は山積みです。

そんな中でも実はドイツ経済はEC発足当初より安定した成長を続けています。今やEUの経済経常収支の黒字の約8割がドイツによるものです。

また、EUのGDPは世界の約22%を占めており、米国に次ぐGDPを誇っています。しかし、そのEUのGDPも英国を含めた上位6ヶ国で70%を占めており、後の国はほとんど貢献できていないのが現状です。

こうしたことからもドイツはEUを率いていくに相応しいリーダーであるものの、EUという共同体に身を置くメリットが見いだせないと感じた方は多いのではないでしょうか。

なぜこのような惨状のEUにドイツは身を置き続けるのでしょうか。また、他国の経済が低迷する中、ドイツだけなぜ一人勝ちの状況が出来上がったのか。

今回はその疑問にお答えしていきたいと思います。

 

EUの成り立ちとは?

ドイツがEUに身を置き続ける理由を考えるにあたり、EUの成り立ちを知っておく必要があります。EUの歴史は1951年にパリ条約で調印された欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)にまで遡ることが出来ます。

先の2つの世界大戦の要因が資源をめぐっての侵略が原因であったため、それらを共同で管理することで再び悲惨な戦争を起こさないという信念のもと設立されました。この時のメンバーは後のEC発足当時と同じ6ヶ国(ドイツ、フランス、イタリアとベネルクス)です。

そこからEUは資源だけでなく、一つの共同体として協力し合っていくために様々な分野での統合を目指し始めました。

1番初めに行われたのは市場統合です。

1993年1月には人・モノ・カネ・サービスの自由移動が可能になり、経済面での国境というものがなくなりました。そして、同年11月にはEUが発足され、政治面での協力ということが進められ始めたのです。

そして一番大きな変化は単一通貨の導入です。1999年にユーロが導入され、2002年には一般にユーロ紙幣、貨幣が流通するようになりました。

実はこの単一通貨「ユーロの導入」こそ、ドイツ一人勝ちのからくりに大きく関わってくることになるのです。

 

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ユーロとドイツ経済好調のからくり

ユーロの導入は元々ドイツの影響力を少しでも軽減しようとしてフランスをはじめとした他の国々が推奨し始めたものでした。しかし、それが皮肉にもドイツ経済好調の要因の1つになるとは当時夢にも思わなかったでしょう。

ドイツの経済は主に輸出産業に依存しています。輸出産業というのは、自国の通貨価値が低い方が、高い場合よりも利益を出し易いという特徴があるのですが、通常は経済状況が良くなれば通貨価値も上がるので、輸出は不利になります。

しかし、ユーロはドイツの経済状況だけでなく、他の国の経済状況も反映して決まります。そのため、ドイツの経済状況がいくら良くても他国で問題が起こればユーロ安になることだってあるのです。

それがドイツの輸出産業に有利に働き、ドイツの経済は上手くいくようになったのです。実際に元ドイツ通貨のマルクを使っていた時よりもユーロを導入した後の方が通貨価値は下がっています。つまり、ユーロ安が続くほどドイツの経済は豊かになるのです。

 

しかし、ドイツもはじめから好調だったわけではありません。東西ドイツの統合をきっかけに経常収支は赤字に転落し、失業率も欧州では高いほうの国に分類されていました。特に2000年代半ばには失業率が10%を越えてしまい、一刻も早く解決策を打ち出さなければならないという状況にありました。

そこで行われたのが市場改革です。長期失業者への失業保険をカットしたり、労働環境の改善をして働きやすい環境をつくり出すことで就労していない人を労働者として社会に戻す取組みを積極的に行いました。

また、労働賃金の上昇を抑制したことで労働者にかかるコストが低い東欧諸国と対等に競争できる地盤を整えたことで国内経済を活性化させることに成功したのです。

その結果、失業率が低下して現在は日本よりは高いものの5%ほどになっています。しかし、失業率の低下と就業率の上昇は年々改善されてきており、失業率に関しても日本をよりも低くなる日近いかもしれません。

 

ドイツがEUから離脱しないメリットとは?

それはやはり先ほどのユーロによる恩恵が大きいことが一番の要因でしょう。ただし、離脱しないというよりもできないと言い換えることもできます。

英国がEUから離脱する選択を出来たのは、単一通貨であるユーロを導入しておらず、シェンゲン協定にも加盟していなかったということが大きかったでしょう。それぞれを統合した実績はあっても、脱退した実績は今のところありません。

ギリシャ危機が起こった後でさえ、ギリシャはユーロを使うことを許可されています。つまり、単一通貨を導入するのは簡単でもその輪から抜けるということは非常に難しいということです。

その上、ドイツはユーロ安の恩恵を受けることが出来るのですから、離脱するメリットがありません。ましてやEUのリーダーともいえるドイツが離脱するということはEUそのものが崩壊する事態であるといっても過言ではないでしょう。それだけEUにおいてドイツの影響力は大きく、かつ責任も重い立場にあるのです。

 

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ドイツがEUを離脱しない真の理由は

EUは現在では1つの経済共同体というイメージが強いかもしれません。しかし、EUがつくられたそもそもの理由は、戦争を2度と繰り返さないという志があったからです。

歴史の中で戦争ばかり繰り返してきた欧州という国がひとつにまとまるということに意味があるのです。実際に第二次世界大戦後、欧州では大きな戦争は起こっていません。

欧州におけるドイツの影響力は未だに大きいものです。もし、ドイツがEUから離脱するということになれば、周辺国はその影響力の大きさに不安を感じることになるでしょう。EUという共同体は、そういった力の弱い周辺国の国民が安心して暮らしていくためにも存続していかなければなりません。

ドイツにとって、第二次世界大戦は非常に苦い思い出であり、反省もしています。そして同時に、それを二度と繰り返さないという気持ちが大きいのです。

だからこそEUへの協力も積極的に行い、リーダーとしての役割も務めています。もちろんユーロのメリットで経済の活性化という理由もありますが、それはそこまで大きくないと私は思います。そもそもドイツが一人勝ちしているのは、より良い社会の実現のために努力してきた結果であり、最初からそこまで計算していたわけではないでしょう。

ですから、ドイツがEUから離脱しない理由は、EUこそが平和な世界の実現のために必要なものだという考えと、自分たちがその中心にいるという考えによるところが一番大きいというのが私の個人的な意見です。