9月27日に、昨年の参議院選挙での「一票の格差」について、最高裁判所で合憲の判決がありました。

選挙のたびに話題になりますが、この「一票の格差」とは何でしょうか。

そしてなぜいつまでも言われ続けるのか、解決策の問題点と合わせてまとめました。

 

一票の格差は違憲?

まず、「一票の重さ」とは何でしょうか。

18歳以上の日本国民は、誰でも必ず選挙権があり、一人一票投票することができます。ところが、人口が90万人の小選挙区Aと、人口が30万人の小選挙区Bを比較すると、一票の重さに3倍の差があることなります。(ただし、この選挙区Aに10人が立候補し、12万票で当選し、選挙区Bに2人が立候補して、16万票で当選するような場合がありますから、必ずしも「当選者が得票した数での比較ではない」ことに注意が必要です。)

ところが、日本国憲法14条において、全ての国民に法の下の平等が保障されています。つまり、投票における一票の重さも平等でなければならないのです。

ただし、選挙区を設定する選挙においては、人口の増減が生じるため「必ず」有権者の一票の重みに差が付きます。また頻繁に選挙区が変わることは、有権者にとってはデメリットになることもあるため、ある程度の差が生じることは容認されています。近年の最高裁判所の判決では、衆議院議員選挙においては2倍、参議院議員選挙においては3倍程度なら違憲や選挙無効の判決とはならない状況です。

 

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重みの差の是正する解決策の問題点

実は、一票の重みを平等にする簡単な方法があります。それは、国政選挙では選挙区を設けずに「全国統一区」にすればよいのです。全国民が全ての候補者を選ぶ選挙ならば、格差は生じません。

ところが、全国区の選挙には大変なお金がかかります。例えば、公選ポスターを貼るとしても、日本全国に貼るためには大量に印刷しなければいけませんし、貼るための全国組織が必要になります。全国各地に演説しに行くのも大変な旅費がかかります。すると、資金力のある候補者ばかりが有利になってしまい、選挙制度自体が不平等なものになってしまう恐れがあるのです。このため、議席のすべてを全国統一区とするのは現実的ではありません。

 

では、選挙区を設定した上で、なるべく格差を小さくするためにはどうすればいいのでしょうか。

単純に考えると、全国の人口を議席数で割って、1議席当たりの人口を仮に設定し、その基準人口に基づいた選挙区を設定すればよさそうに思います。ところが、参議院議員選挙のことを考えると、ことはそう簡単ではありません。

現在の参議院の定数は242人で、このうち選挙区の定数が146人とされています。参議院は3年ごとに半数を改選することが憲法に規定されていますので、1回の選挙で比例区で選出されるのは73議席ということになります。

日本の人口を1億2700万人として、73の小選挙区を設定する場合、人口約174万人ごとに一つの選挙区を設定すれば、選挙区の間での格差は無くなります。

ところが、全国最少の鳥取県の人口は57万人しかありませんし、そもそも47都道府県のうち半分以上の24県は人口が174万人未満なのです。174万人を基準として複数の都道府県を統合しようとすると、鳥取県(人口57万人)と大分県(116万人)を統合するようなことになり、有権者の民意の反映や、選挙戦を戦うことを考えると、現実的な解決策とは言えません。

とは言え、2013年の参議院議員選挙では4.77倍まで格差が広がり、各都道府県から1人選出するという原則を一部見直し「合同選挙区(合区)」が導入されることになりました。これを受けて、昨年の参議院議員選挙では、島根県と鳥取県、徳島県と高知県は合区となって選挙が実施されたのです。

この選挙について、有権者からは「隣の県の議員のことはよく分からない」との声があり、候補者にとっても島根の端から鳥取の端まで250kmくらいの長さがあって、とても選挙区内を回り切れないなど、苦労の絶えない選挙となりました。世論調査でも65%の人が合区に反対し、島根県以外の3県では過去最低の投票率を記録。4県の知事は全員がこの制度に対して反対を表明しています。

 

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自民党の掲げる解決策

選挙区の見直しや、合区の導入など、格差を是正するための努力は続いていますが、現実的な解決策を見いだせていないのが現状です。しかし、やはり一票の価値に2倍の差があるのは異常です。参議院議員選挙では合区によって3倍程度まで格差は解消しましたが、2014年の衆議院議員選挙での2.1倍という格差については「違憲状態」との最高裁判決が下されています。

また、合区という制度自体が急場しのぎの制度であることは間違いなく、今後も不断の改革が求められています。

今回の衆議院議員選挙の政権公約において自由民主党は、憲法改正項目の4つの中に「参院選における合区の解消」を掲げています。「3年ごとの参院選において各都道府県から1人以上を選出する」という旨を明記する方針のようですから、憲法がこのように改正された場合は「一票の格差が無くなる(縮小する)程度まで議席数を増やす」もしくは「一票の格差を容認する」のどちらかにならざるを得ません。

議席数を増やす場合、単純に最も人口の少ない鳥取県(57万人)を基準として考えると、3年ごとに定数223人の選挙をすることになります。すると、少なくとも参議院の定数は446人が必要となってきます。現在の定数が242人ですから、昨今の財政ひっ迫の中でいきなり200人の増員ということは考えづらく、どのような形で実現されるのかは不透明な状況です。

 

ちなみに、アメリカの上院は州ごとに選出されますが、一票の格差が70倍でも問題にならないようです。これは、憲法において各州ごとの定数を2議席と規定していて、あくまでも州の代表であると位置付けられているために違憲とはならないのです。

日本では、そもそも参議院の位置づけが不明瞭であるということも、このような問題を難しくしているのかもしれません。