スペイン政府は2017年10月19日にカタルーニャ州の自治権を停止する措置とることを発表しました。スペイン政府は10月初めのカタルーニャ州の独立の是非を問う選挙に対しても反対の姿勢を貫いてきました。

そうしたスペイン政府のあからさまで強行的な独立対策行為に対して、

「このまま抑圧を続けるのであれば、投票結果に従い独立宣言をする」

という意志表示をしていたカタルーニャ州では、今後のさらなる混乱は避けられないでしょう。

 

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しかし、独立の意志を示す住民たちの民意を無視して政府が自治権を取り上げるということは可能なのでしょうか。これは人権問題になるのではないかという疑問を感じた方も多いことだろうと思います。

そこで、今回なぜスペイン政府がカタルーニャ州の自治権の停止を選択することが出来たのか。また、今後どのような事態が想定されるのかといったことについて、わかり易く説明していきたいと思います。

 

自治権の意味とは

まずその前に、自治権と言われてもピンと来ない人も多いかと思いますので、その点を抑えておきましょう。

自治権というのは、自治の権利のことです。

自治とは、わかりやすく簡単に言えば

自分たちに関することを自らの責任において処理すること

になります。

その適用範囲はそれぞれではありますが、カタルーニャ州はスペイン政府の管轄下にありスペインの一部なので、カタルーニャに対してどれだけの自治を与えるかを決める権利があり、相応の自治権を与えているのです。

 

州の自治権停止が出来るスペイン憲法155条とは

今回の州の権限停止措置はスペイン憲法155条を根拠にして行われました。スペイン憲法155条では自治政府が重大な問題を起こした場合、「スペイン全体の利益のために必要な措置をとることができる」と定められています。

2017年10月中には上院が承認する見通しです。承認後は6ヶ月以内に中央政府の権限で議会を解散し、6ヶ月以内に議会選を行うと見込まれています。既存の政府を解散させるだけでなく、政治体制自体も刷新する目的のようです。

 

この動きに対して2017年10月21日には現州首相のカルレス・プチデモン(Carles Puigdemont)も参加した大規模なデモがバルセロナで行われました。スペイン政府が州の独立阻止のために自治権を停止し、新たな独立の是非を問う選挙をスペイン政府のもとで行うとの決定を下したことにデモはさらにヒートアップ。

人々は口々に「自由」と「独立」を叫んでいました。このデモに参加したとされる人々は約45万人にも上るとカタルーニャ州自治警察の発表がありました。

しかし、もしカタルーニャが独立してしまえば、スペイン全体の人口が約4,646万人であることを考えた時のスペインの損失は計り知れません。

スペインの利益のためにカタルーニャは必要とされているのです。

 

しかしながら、それはスペイン側の理屈であり、カタルーニャ側からすれば自分たちがスペインに利用されていると感じても仕方がないのではないでしょうか。

まだまだ住民たちの不満は募る一方です。しかし、カタルーニャ州がスペイン政府に自治権を取り上げられてしまえば何もすることはできなくなるでしょう。そうなればこの強硬手段をもってカタルーニャ州独立騒動は解決したとみていいのでしょうか?

 

カタルーニャ独立に対する各国の対応

カタルーニャ州の独立問題に対してEUは長いこと沈黙を貫いてきました。しかし、ドナルド・トゥスク欧州理事会常任議長(EU大統領)は2017年10月19日にスペインとカタルーニャ州の仲介を行わず、不干渉を貫くことを明言しました。

また、フランスのマクロン大統領やドイツのメルケル首相をはじめとするEU首脳たちはスペイン政府を支持する姿勢を見せています。しかし、なぜEUは今回の問題に対してスペイン政府を支持しているのでしょうか。

一方でロシアのプーチン首相は、

「これは、特定の独立分離運動は支持するにもかかわらず、その他の独立分離運動は支持しない西側諸国の偽善を浮き彫りにした出来事である」

と非難しています。

これは、EUはコソボがロシアの同盟国であるセルビアから独立したときには指示したのに、今回のスペインからカタルーニャが独立するのは不支持というのはおかしいのではないか、という指摘です。

さらにイラクのクルド自治区の独立に関しても、不支持の姿勢を見せたという例をあげてEU側の決定の定義が不明瞭であることを指摘しています。

 

今回の指摘に関しては、私はプーチン首相の意見の方が筋が通っていると思います。そこに住む人々が独立を望むのにも関わらず、国益のためにそれを強硬手段でもって阻むスペイン側の方に問題があるように思われるからです。

今回のことで、私はEUの掲げる人権とはどういったものなのか、改めて問う必要性を感じています。

 

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≪参考≫

カタルーニャの歴史、独立の理由と影響をわかり易く。サッカーチームはどうなる

 

まとめ

カタルーニャが自治権を停止されたことで、今後カタルーニャからスペイン政府に徐々に権利がうつされていき、独立問題は抑圧という形で終幕を迎えることになるでしょう。残るものは独立と自由を求める気持ちがくすぶったままのカタルーニャ州の住民です。

そのような人々の不満は一時的に抑え込むことが出来てもいつかは爆発するものです。そのような形になるかはわかりませんが、おそらくスペインに自治権が移されたとしても、次の問題が起こるまでそう遠くはないでしょう。

こういう強引なやり方はかなり際どく、大きなリスクと隣合せなのです。

 

また、憲法では自治権の停止に関して「時間的な制限」を設けてはいません。だからこそそこを突いてカタルーニャ州が裁判に持ち込む可能性もあります。しかし、国益優先の考え方をするのであれば裁判所もスペイン政府寄りの考え方になるということは否めません。

実際に日本と沖縄の裁判に関しても、日本政府側に明らかに問題があった時でも裁判所側は沖縄に不利な判決を下した例が数多くあります。すべては国益を重視した判決を行った結果なのです。

 

日本でもあり得る?

カタルーニャ州の問題も日本は他人ごとではありません。一部地域に負担を強いているという現実を国益のためだからといって目をそらし続けていると、必ず住民たちの心にくすぶる不満が爆発する日が来ます。

日本ではどのような形でそれが現れるかわかりませんが、そう遠くない未来に起こりうる問題だと私は思っています。遠い世界で起こっている出来事ももはや日本にとって他人ごとでは済まないのです。

だからこそ、日本政府もカタルーニャ州の独立を支持することが出来ないのでしょう。なぜなら自分たちも国益のために一地方に負担を強いている自覚があるからです。おそらく西側諸国のほとんどの国で同じ問題があるのでしょう。

今回の独立問題に対して不干渉を貫く国ばかりなのは、そういった事情が背景にあるからだと私は考えています。