新聞やテレビのニュースでTPPという言葉が流れるようになってから、随分と長い年月が経ったように感じますが、最近ではTPP11と呼ばれるようになりました。

TPPからアメリカが離脱したのでTPP11となったのですが、実は、TPPの前身となる枠組みがあったことは知らない人が多いかもしれません。

ここでは、TPP11についてのこれまでと参加国、日本の対応にフォーカスしてまとめました。

 

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TPPの前身の枠組みであるTPSEP

TPPの交渉が始まる前、2005年に太平洋を取り囲む4つの国(ブルネイ、チリ、シンガポール、 ニュージーランド)によってTPSEP(Trans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreementの略。日本語では「環太平洋戦略的経済連携協定」)という貿易協定が締結されました。

このTPSEPは4か国でスタートしたものの、将来的な拡大を見据えていましたので、2006年の発効直後から締約国の拡大に向けた動きが始まりました。

今や報道にはほとんど出てきませんが、今日まで続いているTPPやTPP11の交渉は、本質的には「TPSEPの拡大交渉」なのです。

 

2008年になり、TPSEPの拡大交渉に向けて、最初に参加を表明したのはアメリカでした。直後にオーストラリアも参加検討を表明。そして、2010年に行われた最初の拡大交渉のテーブルに付いたのはアメリカ、オーストラリア、ベトナム、ペルーの4か国で、追ってマレーシアも拡大交渉に参加しました。

この時点で、合計9ヶ国になります。

そして2010年11月のAPEC会合では、当時のオバマ大統領を議長として「1年後のAPECまでに妥結と結論を得る」と表明し、2011年に行われた拡大会合では、カナダメキシコの参加も決定。そして、この会合に参加した11か国は大筋の基本ルールで合意に至ったのです。

 

日本参加への流れ

一方、日本政府は2010年10月、当時の菅直人総理の所信表明演説において、TPPへの参加を目指すことを明らかにしました。同年11月のAPEC会合でもこのことをアピールしましたが、翌月開催された拡大交渉へのオブザーバー参加は認められませんでした。

なにしろ、TPPの参加国は多く、交渉のテーブルにはあらゆる品目、サービス、制度等が乗っていますので、本当に参加するかどうか分からない国との交渉まで手を広げる余裕がない、といのが当時の状況だったのです。

しかも日本が参加するとなればTPPの経済規模も相当大きくなりますので、態度をはっきりさせたいという思惑も働いていたようです。

当時の世論は、経済界は賛成、農協や地方自治体は反対とはっきり分かれていましたが、政府は全国での理解を進めるためのフォーラム開催などの準備を進めていました。

ところが、2011年3月に東日本大震災が発災し、TPPより前に対応すべき課題が山積みとなり、国内世論の取りまとめは非常に困難なものになります。

結局、2011年の拡大会合へ参加するのかしないのか、当時の与党であった民主党は意見の取りまとめができず、参加・不参加の両論併記という結論に至っています。これを受けて、当時の野田総理大臣はTPP拡大交渉への参加を目指すことを表明。

APECにおいても、同様の方針を表明し、年内には政府内部に事務局を設置し、2012年度予算にも所要の経費を計上することで交渉を本格化させました。

翌2012年には個別の4か国と事前協議を進めたものの、年末の衆議院議員選挙で民主党は敗退し、安倍政権が誕生します。この選挙で自民党は

「『聖域なき関税撤廃』を前提条件にする限り、TPP交渉参加に反対します」

と公約に掲げていましたが、翌2013年の日米首脳会談において「聖域なき関税撤廃が前提条件ではない」ことを確認、TPP拡大交渉への参加を決断しました。

そして所要の手続きを経て、7月の交渉会合においてTPP交渉への参加が認められたのでした。

 

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アメリカの離脱

こうして12か国体制での締約を目指したTPPは、2015年10月に大筋合意に至りました。あとは各国の国内手続きを進め、2016年2月には12か国が署名し、あとは各国が国内での手続きを進めて、2018年4月の発効を待つだけとなりました。

TPPが発効するための条件は、

「署名の日から2年以内に、加盟各国が国内議会などでの承認を得て批准すること」

「全ての署名国が批准しない場合でも、国内総生産(GDP)の合計が全体の85%以上を占める6カ国以上が批准すること」

でした。

ところが、2017年に就任したアメリカのトランプ大統領は、就任したその日に

「アメリカがTPP交渉から永久に離脱することを指示する」

という大統領命令に署名しました。アメリカのGDPはTPP全体の60%ありますから、この大統領命令によってTPPは発効しないことになってしまったのです。

大統領選挙の最中から、トランプ大統領が誕生したらTPPを離脱するかもしれないことは分かっていたのですが、それはあくまでも選挙用のパフォーマンスで、就任する頃には変節するだろう、というのが大方の予想でした。

ところが、選挙が終わり、就任のための準備期間においても、まったく主張が変わらなかったのです。

 

アメリカ離脱の理由(反対派と賛成派の意見)

実際のところ、アメリカ国内でもTPPについては賛否が分かれています。

反対派の最も強力な主張は「雇用が奪われる」ということです。TPPに参加していない現状でも、NAFTA(北米経済連携協定)の枠組みによって多くの製造業がメキシコに生産拠点を移し、雇用が奪われていると感じているのです。

TPPに加盟すると、アメリカでは45万人の雇用が失われるという試算もあり、戦々恐々としているのです。

一方の賛成派は、アメリカ抜きでのTPPが動き出せば、環太平洋という大きな市場を失うことになることを主張しています。

特に農産品については、チリやオーストラリアやニュージーランド等、大規模で効率的な農業国が参加していますから、競争力を失うことを恐れているようです。また、TPP以外にも日本とEUの間ではEPA(経済連携協定)が大筋合意に達しましたので、EUとの間にも不利な競争を強いられることになります。

 

そしてTPP11へ―アメリカ離脱はメリットも?

アメリカが離脱してしまうと、TPPの経済規模は名目GDPで3分の1になり、人口と貿易額は半分になってしまいました。

しかも、参加国にとってはアメリカという大きな市場が開放されることが最大の魅力だったために、そのまま霧散してしまう可能性も少なくなかったのです。

ところが、中国の台頭によって、このまま放っておくとアジア太平洋の経済権益は、中国の独り勝ちになってしまう恐れがあります。

これを防ぐためには、なるべく多くの国が結束して、規模で対抗できるように備えなければなりません。

また見方を変えれば、アメリカ抜きだとアメリカ向けに自由に売ることができないとしても、アメリカから出てくる製品とは戦わなくてよい、ということになります。

例えばカナダは、牛肉の輸出先として日本を狙っているようで、アメリカ産の牛肉には関税がかかるところを、関税無しで輸出できるのです。

同じように、日本は自動車市場において、有利に商売を進めることができるのです。

この点はアメリカ不参加のメリットと言えるでしょう。

 

こういった各国の思惑が重なり、アメリカ抜きでのTPP11の交渉が進められました。

それまでの合意内容は、アメリカありきでの内容となっていましたので、大幅な修正が必要になりつつも、時間をかければまたもめ事が顕在化してしまうため、なるべく早く再合意を得たい、というのも共通認識としてあったようです。

ただし、アメリカ国内で不満を持つ勢力も強く、今後また民主党政権が返り咲けばTPPへの加盟を要求してくる可能性もあるので、TPP11の交渉はアメリカが復帰することを前提として進められていたところもようです。

特に、指導的な立場で交渉に臨んでいる日本は、あらゆる機会にアメリカに対して復帰を呼び掛けつつ、今年のAPECまでという期限を目指してとりまとめを進めたようです。

 

≪参考関連≫日米FTAとは。意味やメリット・デメリットを簡単に分かりやすく

 

TPP11は今後どうなるのか

念願かなって、今回のAPEC会合に合わせ、大筋で決着できる見通しとなっています。

大筋合意が見えてきたことで、最後まで隠していた隠し玉をカナダが投げ込んできたり、最後まで気を抜くことはできませんが、ここまできて破談ということはあり得ないので、今回のAPECで決着するでしょう。

アメリカ抜きの現状でも、これだけ大きな経済圏を確立すれば、競争力を持ち、経済効果が見込めるはずです。

今度こそ、無事に発効まで漕ぎつけることを期待しましょう。