2017年9月24日のドイツ総選挙で衝撃的な結果が出てしまいました。メルケル首相の勝利は前情報から予想通りでしたが、与党が議席数を減らすだけでなく極右政党が議席を獲得してしまうという予想外の結果に、メルケル首相も動揺を隠しきれない様子でした。

今回の選挙結果を見るに欧州全体の極右政党の台頭はついにドイツにまで影響が出てきてしまったと言えるでしょう。

しかし、なぜ極右政党が議席を獲得することが出来たのでしょうか。今回はドイツの選挙制度の仕組みについてわかりやすく説明していきたいと思います。

 

ドイツにはどのような政党があるの?

現在のドイツ与党はキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)自由民主党(FDP)連合与党です。それぞれの特徴は以下の通りになります。

  • キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU

中道右派政党であるドイツキリスト教民主同盟(CDU)と姉妹政党でバイエルン州のみで活動する地域政党であるキリスト教社会同盟(CSU)による連合。中道を謳いながらもどちらかといえばこちらも右翼寄りの政党ではありましたが、宗教色が強いという特徴を持ちます。

  • 自由民主党(FDP

自由主義を掲げる中道政党です。2009年からCDU/CSUと連合政権を構成していました。こちらもどちらかといえば右翼に寄っていますが、自由主義的な考え方が強く、宗教色が薄いことがCDU/CSUとは異なります。

また、野党で一番力を持っているのがドイツ社会民主党(SPD)です。こちらはかつて与党になったこともあるほど力のある党になっています。そのため与党と対峙する立場になることが多く、いつもの選挙であればこちらが与党にとって脅威となる存在でした。

 

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ドイツの主な野党は以下の通りになります。

  • ドイツ社会民主党(SPD

19世紀からの伝統を有する中道左派の社会民主主義政党。左翼寄りでかつ中道的と言いつつ近代では政治的な色が濃い政党となっています。

  • 同盟90/緑の党(B90/Gr)

環境主義政党の緑の党と東ドイツにおける民主主義運動の活動家によって結成された同名90が合併して結成された政党です。自由主義的な色合いが濃く、環境問題に関して積極的に活動しています。

  • 左翼党(Die・Linke

旧・東ドイツにおける支配政党であったドイツ社会主義統一党の後継政党である民主社会党とSPD最左翼派が結成したWASG(労働と社会的公正のための選挙オルタナティブ)が合併して結成された政党です。名前の通り左翼政党であり、自由主義的な考え方が強い労働組合寄りの政党になります。

 

主にこの五大政党がドイツにおいて力をもっており、議席のほとんどもこれらの党の議員によって占められてきたのが今までの選挙です。これまでも極端な思想の政党が出てきたことはあってもここまで大きく問題になることはありませんでした。

 

戦後ドイツの政権の歴史

ドイツの選挙について図

※DPは全ドイツブロック/難民党を指す

 

今までのドイツの政権の移り変わりをわかりやすくまとめると上記の図のようになります。ずっと現在の与党であるCDU/CSUが与党であったわけではありません。現在の野党であるSPDが政権を握ったこともありますし、この2つが連合政権を行っていた時代すらあります。

ドイツの政治は戦後に大きく転換し、今のように五大政党体制にまとまったのは90年代の東西ドイツ統一がきっかけです。

これまで709の議席のうち90%以上を上記五大政党が占めていました。そのため、他のおかしな政党から議員が出てきたとしてもそこまで発言力はありませんでした。

しかし、今回新たに出てきた極右政党「ドイツのための選択肢」は94議席も獲得しています。これは五大政党のCDU/CSUやSPDには及ばないものの、その他の政党に匹敵する議席数となります。これは東西ドイツ統一以来前代未聞の出来事です。それだけに、この異質な政党の存在にはメルケル現首相も頭を抱えざるを得ないというわけです。

 

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ドイツの首相の選び方と、大統領との違い

ドイツの首相は米国の大統領選挙のように、国民が直接投票で選ぶわけではありません。まず、ドイツの大統領が候補者を指名します。

このドイツの大統領というのは、米国の大統領のような政治的権力者ではありません。あくまで、日本の天皇のような国家の顔としての役割を担う存在です。その大統領の仕事の一つとして首相の候補者の選出というものがあるわけですね。

そして、選出された候補を下院の過半数が支持することで首相が決まるわけです。

もし下院で過半数が獲得できなかった場合、今度は下院で新たな候補が選出されます。それに過半数が同意することで新たな首相が決まるというパターンもあります。

 

その後は日本と同じく内閣は指名制です。首相が大臣を指名し、顔ぶれが決まったら大統領に報告することで任命されます。あくまで形式的なものなので、ここで大統領が異を唱えることはできません。

ドイツの首相の任期は4年です。ただし任期に上限はないので下院からの支持があれば何年でも続けることが出来ます。メルケル首相が12年以上続けられているのはこれが理由ですね。

 

また、ドイツの議会は連邦議会と連邦参議院の二院制です。

これは日本の衆議院と参議院の関係とよく似ています。連邦議会は日本の衆議院と同じく任期は4年であり、連邦参議院よりも権力は強いです。投票方法も小選挙区比例代表制をとっているので、ここも日本人には理解しやすいと思います。

日本との違いは、ドイツは満18歳から投票権を獲得すると同時に立候補もできるという点でしょう。その他には比例当選するためには全投票数の5%の票を獲得するか小選挙区で3名以上の当選者がいないといけないといった条件が付いてくることでしょう。

 

上記で説明した点からもわかるように、日本とドイツは選挙制度や首相の選出方法に似通った部分が多くあり、日本人にとってはとても理解しやすいシステムであると言えます。

また、今度日本で行われる衆議院選挙でもドイツと同じように新たな政党が話題を呼んでいます。それだけに私は新たな政党がどこまで台頭するのか楽しみな反面恐ろしくも感じております。

 

まとめ

ドイツの首相は大統領が選出し、下院の過半数が賛成することで決まります。首相が決まった後は大臣などの役職は首相によって選出され、大統領から形式的な任命を受けてはじめて政権の誕生となります。ドイツの選挙制度や政治の仕組みは日本とよく似ており、私たち日本人にはとてもわかりやすいところがあります。

だからこそ今回の極右政党の台頭は他人ごとではありません。今回の極右政党の台頭は東西ドイツ統一後それこそ初めての出来事です。それまで五大政党制で安定していただけに、ドイツの政治に逆風が吹き荒れることは間違いないでしょう。

昔から欧州では1国で起きた出来事が周辺諸国に拡大していくという傾向があります。歴史上の革命もフランス革命がきっかけで周辺諸国にも革命の嵐が吹き荒れました。今回の極右政党の台頭が周辺諸国に波及するとなると、おそらくEUそのものの存続が危ぶまれる事態になるでしょう。

今後のEUはドイツの政治に左右されるのはほぼ確実だと思われます。果たして前代未聞のこの事態にメルケル首相をはじめとする与党は対応できるのでしょうか。今後のEUは彼女の双肩にかかっていると言っても過言ではありません。

日本もEUとEPA・SPA交渉を進めているからには、非常に関係が深いと言えます。今後のドイツの動きは注意深く見守っていく必要があるでしょう。