2017年11月、アメリカのドナルド・トランプ大統領が初めて日本に上陸しました。
来日前は、日米FTAの交渉を突き付けてくるのではないか、と恐れられていましたが、首脳会談での直接的な要求は無かったようです。一方、首脳会談の露払いとして開催された米国通商代表部との交渉では、財務大臣や経済産業大臣に対して日米FTAへの言及があったようです。
なぜ日本政府は、日米FTAに対して身構えているのでしょうか。
ここでは、日米FTAとは何か、その意味とメリット・デメリット、そしてアメリカの思惑について簡単に、分かりやすく取り上げていきます。
日米FTAとは何か(意味)
FTAとは、Free Trade Agreementの略称で「自由貿易協定」と訳されます。
つまり日米FTAは、日米間で交わされるFTA(自由貿易協定)という意味です。
通常、国と国の間の貿易は自由に行われません。
これはなぜかというと国際貿易では通常、取引(輸出・輸入)の度に「関税」をかけるからです。自国の産業を守るために、世界中の国が実施するのです。
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関税の意味や影響、FTAのメリットとデメリット
それでは、関税をかけることは自国にどのような意味や影響(メリット・デメリット)があるのでしょうか。
例えば自動車のことを考えてみましょう。
国産の自動車が120万円で買えるような状況で、同じ性能の海外の自動車が100万円で輸入できるような場合、消費者としては海外の自動車を買いたくなります。
そこで自国の自動車産業を保護するために、自動車を輸入する際には、一律で50%の関税をかけよう、ということになるのです。
このように、なにもしなければ外国製品がどんどん輸入されてしまうような自体を防ぐために、ありとあらゆる製品に関税が設定されています。
しかしながらその一方で、消費者にとっては関税で製品の値段が上がれば、嬉しいことではありません。消費者が喜ばないということは、売れにくくなるので量販店などの流通業者も嫌がります。
また製造業の企業としても、自社で生産する製品には輸入関税がかけられることを望みますが、当然ながら輸出する際は逆に関税が低い方を望みます。
ただし、製造のために必要な原材料は低めの関税で輸入したいと考えています。その方が原価が安くなりますからね。
このように、同じ国の中でも関税が高いほうが良い場合もあれば、低いほうが良い場合もあることに注意が必要です。
つまりFTAのメリット・デメリットというのは全体としてよりも、業種別で考える必要があるわけですね。
ちなみに、二国間で結ばれる場合もありますし、NAFTA(北米自由貿易協定)やTPP(環太平洋連携協定)のように複数の国で結ぶこともあります。
これらも、参加国や条件が違うだけで意味や内容そのものはFTAと同じです。
それぞれの国にそれぞれ保護・育成したい産業がありますから、全ての関税を撤廃するということはなくて、どの国がどの製品をどれくらい保護するか、という点を協議しながら締結を目指します。そのため、締結までには長い年月を要することが多いです。
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アメリカにとってのFTAの意味
太平洋をぐるっととりまく12か国で締結を目指していたのがTPPですが、アメリカでトランプ大統領が就任し、TPPの交渉から撤退することになりました。
なぜ撤退したかと言うと、トランプ大統領は、TPPが締結し関税が撤廃されることで、アメリカ国内の工場の多くが閉鎖されて海外に移転してしまうと考えているからです。つまり、メリットよりもデメリット(リスク)が大き過ぎるという考えです。
そして、TPPからの撤退を公約に掲げて大統領選挙を戦い、選挙に勝利しました。
確かに、アメリカ国内の自動車メーカーとして考えれば、アメリカは人件費が高いので、労働者を安く雇用できる海外に工場を移転する、というのがビジネス的には当然の行動です。
その上に、海外で自動車が安く生産され、無関税で輸入することになったら、アメリカ国内で製造された自動車はもっと売れなくなってしまいます。こんな悪循環が始まったら、景気が悪くなる一方だと考えているのでしょう。
非常に筋の通った考え方ですね。
日米FTAはアメリカの方がメリットが大きい?
交渉を担当する米国通商代表部としても、TPPだと11か国を相手に損得勘定を考えなければいけません。しかし二国間交渉なら、得意分野が有利になるような交渉を進めることができます。
特にアメリカにはそれが言えるので、アメリカを例に出してみましょう。
例えば、アメリカは自動車メーカーも多いですが、農業生産も莫大です。自動車の輸出入のことを考えたら、日本の自動車は輸入したくないので、高い輸入関税をかけたいのですが、オーストラリアの自動車メーカーとは大きな争いが無いので、輸入関税は必要ありません。
でも、牛肉のことを考えると、日本の牛肉は高価ですから輸入関税をかけなくてもいいのですが、オーストラリアから入ってくる牛肉には輸入関税をかけたいのです。
このようなアメリカ中心の損得勘定だけでTPPの条件交渉を進めるのは非常に困難なのですが、日米FTAや米豪FTAという二国間の枠組みにしてしまえば、それぞれの相手国に対して都合の良い条件を引き出すことができるのです。
しかもアメリカには世界一の経済規模があるので、それを前面に出すことでより有利な条件を引き出すこともできます。
日本としても、日本vsアメリカという構図だと経済規模・交渉力とも自力で頑張らなければいけませんが、TPPであれば11か国で力を合わせてアメリカと交渉することができますから、アメリカにはTPPの枠組みに戻ってもらいたいと主張しているところです。
最後に
今回の日米首脳会談の場では話題とされなかった日米FTAですが、トランプ政権はまだあと3年続きます。
今のところは、アメリカが抱える対日本の貿易赤字は10%程度のため、それほど強い圧力をかけてこなかったと考えられています。また、アメリカの通商交渉としては、NAFTAの見直し等、他に優先順位の高い交渉を抱えているため、日米FTAの交渉を始める余力が無いという見方もあります。
今後は、中国との間に抱える貿易赤字(アメリカの貿易赤字のうち、半分が対中国のもの)を縮小し、NAFTAの改定交渉に目途が付けば、日本との交渉にも本腰を入れることになると予想されます。
わたしたちの生活にも、大きな影響があると考えられる日米FTAですから、今後の交渉の行方に注目しましょう。