東名高速道路で、2017年6月にトラブル相手の進路を妨害して、追い越し車線で車を停車させた挙句、その車に乗っていた夫婦2人が後続のトラックにはねられて亡くなる事故が発生しました。

この事故を巡って、「殺人罪で裁くべきだ」「故意の事故ではないか」など、様々な意見が飛び交っています。

このような交通事故が起こる度に、道路交通法規が改正されてきましたが、悲惨な事故は後を絶ちません。わたしたちは、どのように考えていけばいいのでしょうか。

ここでは、2017年6月の東名高速道路の事故について、事故の原因と犯人・石橋和歩が被害者夫婦に行った行為の罪の重さを考えてみたいと思います。

 

どのような事故だったのか

現時点で判明している内容だと、以下のような事故のようです。

・被害者夫婦と容疑者は、近くのパーキングエリアでトラブルになった

⇒容疑者が夫婦の車を追いかけ、高速道路の追い越し車線に無理やり停止させた

⇒そこに大型トラックが追突

⇒被害者夫妻が亡くなり、娘2人が軽傷を負った

⇒3ヶ月に渡る捜査の結果、警察は『過失運転致死』の疑いで容疑者を逮捕

この「過失運転致死傷罪」とは、自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた場合に適用され、7年以下の懲役または禁錮もしくは100万円以下の罰金が課せられる罪です。

「過失」とされていることからも分かるように、「ケガを負わせよう」とか「命を奪ってやろう」といった故意が無くても成立する犯罪です。

 

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罪の重さが適正ではないという主張

一方、過失運転致死の疑いでの逮捕では甘いと批判する人は、「危険運転致死傷罪」か「妨害運転致死傷罪」の疑いがあると主張しているのです。どちらの罪でも、被害者を死亡させた場合には、懲役1年以上20年以下の刑に処せられます。

ところが、これらの罪の適用対象となる4つの行為のうち、通行を妨害する行為が対象となり得るのは「人又は車の通行を妨害する目的で、通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為」です。

今回の事故では、容疑者の危険な運転行為によって追い越し車線で自動車を停止したようですが、被害者を死亡させたのは後続の大型トラックです。妨害運転と死亡事故の間に「停車」という行為を挟んでいるため、警察は直接の罪を問うのは非常に困難と考えているようです。

もちろん、故意に停車させたのは容疑者ですから、「停車させることによって被害者が亡くなること」「容易に想像できた」かどうかが問われることになりますが、パーキングエリアでのいざこざによって、頭に血が上っていたという状況も併せて考え、故意ではなく過失での逮捕となったのでしょう。

 

悲惨な事故によって新たな罰則が生まれる

危険運転致死傷罪は、2013年の道路交通法改正によって創設されました。

この法改正が行われる前は「無免許運転を繰り返し、さらに居眠り運転の状態で10人を撥ねて3人を死亡させた事故」や「自動車の運転には危険な持病を持ちながら運転して発生した重大な事故」や「飲酒運転による事故を起こした場合に、酔いが冷めるまで待つような逃げ得の行為」等が、一般的な感覚よりも軽い刑罰となっていました。

これらの事故を受けて、一連の道路交通関係法規が改正され、無免許運転であっても処罰できるようにされ、重大な事故につながるような持病による事故も処罰の対象となり、飲酒運転や脱法ドラッグの影響による事故は厳罰化されたのです。

今回の事故も、死亡の直接の原因ではないにせよ、「運転する行為からの『一連の行為』によって被害者を死亡させることとなった場合」に適用されるような罪が新設される契機となるのかもしれません。

ただ、個人的には直接的にではなくても危険運転致死傷罪の適応が認められる、という、法改正という形になるのではないかと考えていますが。

 

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犯人・石橋和歩の被害者夫婦に対する行為の罪の重さ

ところで、こうした悲惨な事故が起こると、わたしたちは必ずと言っていいほど「自分が被害者になる場合」や、「自分の家族・親族が被害に遭うこと」を重ね合わせて物事を考えます。しかし、もし自分が逆に加害者になったり、加害者側の家族・親族だったらどう思うでしょうか。

パーキングエリアでいざこざがあってムシャクシャした後で、偶然、高速道路上で相手の車と並走した。ついカッとなって、無駄にクラクションを鳴らしたり、幅寄せやスレスレの追い越しやブレーキランプを点灯させる、といった行為は、それほど珍しいことではありません。

もちろん、今は冷静な状態かもしれません。でも、仕事や家庭のストレスを抱えているときや、寝不足だったり、まだ若い青年だったりすれば、つい「カッとなる」のは、日常でよくあることでしょう。

それが限界に達して、高速道路上で車を停めて口論になって、後続のトラックが突っ込んできて、口論相手が命を失ったらどう思うでしょうか。

今回の容疑者は、この事故以外にも乱暴な運転をしていたことが報道されていますが、多くの交通事故は、本当に普通の人が起こしているのです。

 

また、敢えて指摘するならば、今回の事件も被害者が路側帯で停車していれば、このような結果にはならなかったと考えられます。少しバックしてハンドルを切り返せば、その場で停止し続けなくても良かったと思います。

高速道路路上に車を止めることがどれだけ危険なことなのかを考えれば、相手がどんなに気の狂った人物であっても何とか躱して安全な場所まで行こうとするはずです。増してや、子供が乗っているのですからなおさらでしょう。恐らく、石橋容疑者に対してよほどカッとなってしまって冷静さを失っていたのだと思いますが。

であるならば、一方的に加害者ばかりを責めるのはどうなのでしょうか。過失運転致死で検挙されたのは、そのような背景もあるのではないかと思います。

 

まとめ

石橋和歩容疑者の過去等を見るに、彼が犯罪者気質であることは間違いないでしょうが、今回のような事故を起こす可能性のある人物は、若者であれば意外と多いのではないかと私は思います。

であれば、加害者の犯した罪の重さに応じて、適切な罰が与えられるべきなのは当然ですが、「罪の重さ」について考えるときは、被害者の視線で加害者に責任を丸投げするだけではなく、加害者の視線を持つことも大事だと思います。

 

そうすれば、自分が被害者とならないためにはどうするべきなのか、についてもっと多くの人が真剣に考えるようになるのではないでしょうか。