英国(イギリス)といえば鉄道発祥の国です。日本に鉄道技術を伝えたのも正にその英国なので、その英国に今度は日本が進出するというのはとても感慨深いものがありますね。

現在世界では鉄道産業の輸出が激化しています。中国はローコストであることを前面にPRしてアジアをはじめとした各国に事業を展開しています。日本は中国相手に何度も鉄道事業の競争に敗れており、日本の鉄道事業の世界進出はかなり危機的な状況にあります。

そこで今回の英国での新高速鉄道の運行というのは日本にとってその技術を世界中にアピールできる絶好のチャンスというわけです!

英国はなぜ日本を選ぶことにしたのでしょうか。

また、運行開始までにどれだけの苦労があったのでしょうか。そうした経緯をわかりやすく解説していきたいと思います。

それと同時に日本の鉄道産業の世界進出の今後についても考察していきましょう。

 

日立の英国への車両輸出の歴史

英国では1993年に鉄道事業が民営化して、オペレーター・車両調達・インフラ整備の役割をそれぞれ分割した「上下分離」方式が採用されることになりました。

そのせいで鉄道事業が不安定になり、車両を自国ではなく他国から受注する割合が高くなったために、日立は英国を車両の輸出先として目を付けます。

しかし、1999年以降の入札に参加し始めた日立がすぐに成功したわけではありません。2000年、2001年と連続で参加した入札は共に失敗。インフラ面とシステム面での日英の認識の違いが浮き彫りになる結果に終わりました。

 

そこで日立は認識の違いを払拭するべく、まず自社製品の知名度を英国で上げるということに尽力し始めます。2003年に英仏海峡トンネル連絡線(CTRL)の受注を獲得する際には「日立レールヨーロッパ」を設立し、英国国内での知名度と信頼度向上に力を注いだのです。

在来線車両に日立製の機器を搭載させて安全性と信頼性を英国国内で広めつつ、現地の雇用を増やすことで、英国人好みの車両のデザインをつくり上げるなど積極的な広告戦略と営業を展開しました。その結果、2005年6月にCTRL用の車両である「Class395」174の製造とその保守の受注に成功します。

その要因は日本と英国の鉄道事業における保守の担当の違いです。日本では車両製造後の保守作業は鉄道会社が担うのに対して、英国では保守作業は車両メーカーが行わなければならないのです。

その知識がなかったがゆえに、日立は始めから英国での車両入札を成功させることが出来なかったのです。そのため、日立はJR東日本の協力を得て保守事業を自社で行えるようにしました。日立の英国での鉄道事業への挑戦は、そこから始まったと言えるでしょう。

 

Sponsored Link

 

一筋縄ではいかなかった道のり

日立が次に目指したのが都市間高速鉄道計画(IEP)でした。計画自体が持ち上がったのは何と2007年!今から10年も前のことです。始めは日立有利で交渉が進んでいたものの、英国政府との交渉はなかなか進みませんでした。

その原因はリーマン・ショックや金融危機といった経済的な要因から、英国国内での政権交代といった政治的要因まで多岐にわたります。また、英国経済が低迷する中で海外企業である日立へ巨額インフラを発注することに国内から批判の声も上がっていました。

そもそもこのIEPを提案したのは労働党で、その労働党が2010年の選挙で負けたために計画そのものが頓挫する可能性さえありました。それに対して日立は政府や金融機関などに働きかけ、規模こそ縮小したものの2012年に受注契約を結ぶことに成功しました。

 

IEPを契約するための日立の努力

日立が英国政府との交渉にあたり、用意した切り札が英国国内への雇用の創出です。

一番初めに輸出する車両を除き、あとは英国国内で車両の製造が行われます。また、保守事業に関しても現地従業員が行うことになっており、英国に有利な条件を取り付けたというわけです。

それは日立側にとってもメリットになる事でした。ヨーロッパの鉄道事業は競争が激しく、英国からいつまで受注を受けられるかわからないような状態にあります。だからこそ、これからの競争も勝ち抜いていけるように、企業に対する英国住民の理解が非常に重要な事だったのです。

また、英国での契約が成功したことが世界中に広まれば、世界との契約も有利に働きかける事に繋がると私は考えています。鉄道発祥の国である英国にも認められた日本の技術ということが世界中に広まれば、ローコストでも安全性や契約不履行などの不安がある中国製よりも日本製を選びたいと考える国も増えるのではないでしょうか。

実際にフィリピンでも日本は中国との競争に敗れたものの、鉄道計画が中国との契約の問題で頓挫して改めて日本製を検討する段階にあります。世界も今鉄道事業に関してはコストよりも安全性を重視する時代になってきているのです。

 

Sponsored Link

 

高速鉄道の水漏れトラブルの意味

しかしながら、2017年10月16日より英国で走行を始めた日立製の高速鉄道の車両は初日からトラブルに見舞われ、暗雲を投げかけました。客席の頭上にある空調機から水漏れが起き、座席がずぶぬれになってしまったのです。これは技術力の高さを世界に誇る日本製にはあってはならないトラブルです。

世界での日本の評価は技術大国です。現在では台湾や韓国にそれを譲りつつありますが、かつてのそのイメージは未だに健在です。日立の名前は英国に通じなくとも、日本製に対する信頼は世界共通のものなのです。

その日本製でトラブルが起きてしまったのですから、正直どこに頼んでも同じだったのではないかと思われても仕方がありません。とはいえ起こってしまったことはしょうがないので、今後の運行でトラブルを起こさないことでイメージを挽回していくしかないでしょう。

現在日立の車両輸出先は台湾を抜いて英国が1番になるほど大きな市場となっています。その英国での契約が更新できなくなってしまえば、日本の鉄道輸出産業の未来は暗いものとなってしまうのです。

 

まとめ

今回の高速鉄道水漏れの事故は、日立及び日本の鉄道業界にとってショックな出来事ではありますが、もちろん、挽回できないわけではありません。人間関係で言えばいきなり初対面の人の前でお漏らしをしてしまったのに近いかも知れませんが、その後の対応次第ではどうにかなるはずです。

同時に、アジアや他の地域での鉄道輸出に関する計画をいち早く察知して入札を成功させていく視点も非常に大切ですし、実際にチャンスがあります。

現状では、アジアやアフリカなどは正規の方法で入札を行っても、土壇場で裏金などの行為によって契約を覆されてしまうことは少なくありません。実際に明らかに不自然な入札がアジアの鉄道計画で数多く見られたことも事実です。しかし、計画のその後を見てみると計画通りにいかずに頓挫していたり、開通した鉄道がすぐにダメになってしまったりと円滑にことが進んだケースはほとんどないのです。

そんな目にあった国ほど日本製を信頼してくれるのではないでしょうか。もちろんそのためには、今回の英国での鉄道計画の成功は必要不可欠です。いきなりやってしまいましたが、日本の鉄道輸出事業の未来は、日立製高速鉄道の製造と保守事業に掛かっていると言っても過言ではないので、今後の巻き返しに期待しましょう。