私達日本人の見方からすると、

「アメリカはなぜ銃なんて物騒なものを許可しているのだろう」

「銃がなくなれば物騒な事件の多くはなくなるはずなのに」

という考えを抱いている人は少なくないと思います。

実際、アメリカでも同じ考えの人は多くいて、その人達は銃規制の動きを見せていますが、それでもなかなか進展しないのが現状です。

というわけで、ここではアメリカが銃規制をしない理由、銃規制に対する反対意見の裏側を見ていきましょう。

 

なぜ規制が進まないのか

銃の所持は憲法で認められた権利だから

アメリカ合衆国の成り立ちは、新大陸への入植・西部への開拓・英国との独立戦争という過程を経ているため、アメリカ人の中には

「銃こそがアメリカ合衆国を成立させた根源である」

という意識が強くあり、そのことは憲法にも記されています。

具体的には、権利章典である合衆国憲法修正2条

「規律ある民兵は、自由な国家の安全にとって必要であるから、人民が武器を保有しまた携帯する権利は、これを侵してはならない。」

と書かれていて、明確に銃を所持する権利が認められているのです。

なお、この修正2条の規定については「民兵」と書かれているので、州兵等の活動にしか適用されないのではないかという指摘もありますが、2007年に連邦最高裁判所は、「個人武装を認める規定だ」との判決を下しています。

 

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アメリカの銃乱射事件と銃規制の歴史と現状。オバマの功績は

 

NRAの存在

NRAとは、

全米ライフル協会(National Rifle Association of America)の略称

です。

元々は銃愛好家のための団体として発足しましたが、コルトやS&W等のアメリカ軍へ武器を供給している会社からの資金援助を受け、多額の政治献金を行うようになり、今では全米で最強の圧力団体と言われています。

有力政治家への政治献金のみならず、敏腕弁護士を雇ってロビー活動(議会や政府に対する政治活動)を行うなど、NRAの主張に沿った政策が実行されるように活動しています。

日本でも、道路工事に熱心な国会議員が「道路族」、農林水産政策に熱心な国会議員が「農林族」などと呼ばれますが、NRAの息がかかった議員は相当な筋金が入っているようです。

今年6月、共和党のマイク・ビショップ米下院議員は、野球の練習中に銃撃されたのにも関わらず、その後のマスコミの取材に対して

「(自分を警護する警官が)銃を持っていたおかげで命が助かった」

と答えています。

また、トランプ大統領も大統領選挙戦の最中、パリでの銃撃事件について

「パリは銃規制が厳しいが銃撃事件が起こった。悪党だけが銃を持っている。」

という趣旨のコメントをしています。

このように、銃を用いた事件が起こって銃規制を求める声が上がっても、半鐘の難しい2つのテーゼ(定立)が規制を阻んできました。

 

テーゼ1:銃が人をころすのではない、人が人をころすのだ

まさに、NRAの掲げる標語は

「Guns don’t kill people, people kill people.」

です。

これは日本でもナイフによる殺傷事件が起こると、同じようなことが言われます。

「包丁でも人はころせるのに、ナイフだけ規制するのはおかしい」

と。

 

テーゼ2:向こうは銃を持っている

法律で規制した場合のことを考えてみると、真面目に法律を守る人は銃を持たず、法律を守らないような無法者は銃を持つことになります。

よって、

ルールを真面目に守る人が危険にさらされるような法律を制定するのはおかしい。

と、NRAは主張するのです。(パリ銃撃事件の後のトランプ氏の発言も、この考え方に基づくものです)

日本人から見るとまるっきりの詭弁ですが、実際にアメリカの田舎の方に住んでいる人にとっては、いつ強盗に襲われるか分からない状態ですから、護身のために銃を持つというのは現実的な選択肢となっているのです。

 

テーゼ3:規制の有効性が不明

司法省の統計によれば、ブレイディ法(銃を販売する際に5日間の猶予を設けるルール)の制定以降の20年間で、銃による殺人は約40%も減少していますし、負傷などの事故は約70%も減っているのです。

単純に考えれば、銃規制が効果を挙げた成果と考えるところですが、NRAを中心とした擁護派は

「銃規制と事故減少の間に、明確な因果関係は無い」

として、規制の効果を疑問視しています。その上、販売規制が強化されているにも関わらず、銃は毎年1,000万丁以上も販売されているのです。

 

ただ、援護派の主張が完全に的外れかと言えば、そうとも言えません。

この20年間はアメリカ国内の景気が改善したため、社会全体が比較的平穏であったという考え方もありますし、米国外でも、景気が良いときは自害者が少ないという傾向があります。

また、カナダはアメリカよりも銃の所持率が高いものの、銃による殺人事件や死亡事故は数えるほどしか発生していないようです。

ですから、銃が社会に出回っていることと、銃による事件が発生するかどうかは、単純に結びつくものではないということにはなります。

 

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アメリカの銃社会は怖いのになぜ続く?実態と歴史的背景

 

銃による事件の原因は何なのか

では、銃による事件が多く発生している原因は何なのでしょうか。

一つは、

「恐怖を煽る報道が危機感を高めている」

という見方があります。

TVで刺激的なニュース映像を流すと視聴率が上がるため、過激な報道が増えているようです。このような映像に感化されて人々の危機感が高まり、ハロウィンのお菓子を貰いに来た子供を銃で撃ってしまう、といった悲劇が起こるのではないか、という分析です。

その一つの良い例として、自衛のためとして銃を備えている家では、「ピローディフェンス(枕の下にショットガンを置いてから寝る)」と呼ばれる行動をとる人もいます。

こうした家庭では、簡単に子供が銃に触ることができるため、年間7,000人を超える子供が銃によって負傷しているという報道もあります。

日本人の感覚だと、銃は鍵をかけて厳重に保管しておくべきだと思いますが、危機を煽るような報道によって、強盗が押し込んで来たときすぐに反撃できなければ意味が無い、という考え方が蔓延しているのが現状のようです。

その結果、事故による犠牲者を増やしたり、過度の護身から攻撃的になる人を増やすということは十分考えられることなのではないかと思います。

 

まとめ

このような状況について、さすがのNRAも頭を痛めているようです。

子供向けの銃の安全啓発教室を開催したり、

「銃を見つけたら大人に知らせよう」

といった内容の啓発映像を保育園に配布するなど、様々な取り組みを実施しています。

また、ラスベガスでの乱射事件後、バンプストック(フルオート連射を可能にする改造パーツ)の取引を規制する声が挙がっていますが、この規制については容認の方向で動いているという報道もあります。

 

ほとんど銃が出回っていない日本とは異なり、既にアメリカでは国民1人あたり1丁以上の銃が出回っているため、所持を規制することは事実上不可能と考えられています。

しかし悲惨な事件を繰り返さないためにも、まずは少しづつでも取引規制を初めなければいけないのではないでしょうか。NRAは規制自体には反対かも知れませんが、やはりその姿勢はやめた方が良いのではないか、と個人的には思います。